「配当だけで年間100万円近くに」…退職金を投じた68歳男性
勝彦さん(仮名・68歳)は、長年勤めた企業を65歳で退職しました。退職金は約3,000万円。夫婦の年金収入は月24万円ほどあり、自宅の住宅ローンも完済しています。
当初、勝彦さんは退職金の大半を定期預金に預けるつもりでした。しかし、銀行で手続きをしていた際、担当者との雑談の中で資産運用の話題になりました。
「いまの金利では、定期預金だけではほとんど増えません」
確かにその通りでした。さらに、投資経験のある友人からも同じような話を聞かされます。
「高配当株なら毎年配当が入る。年金の足しにもなるぞ」
勝彦さんは次第に興味を持ち始めます。インターネットや投資雑誌を読み、有名企業の高配当株を調べるようになりました。
「これなら銀行に置いておくよりいいかもしれない」
そう考えた勝彦さんは、退職金3,000万円のうち2,000万円を複数の高配当株に投じました。購入時の想定利回りは5%前後。単純計算では年間100万円近い配当収入になります。
「年金に加えて配当があれば、かなり余裕が出るな」
妻も最初は不安そうでしたが、「有名企業なら大丈夫でしょう」と納得した様子でした。
購入から数ヵ月間は順調でした。配当金も予定通り入金され、勝彦さんは「やはり銀行に預けておくより良かった」と感じていました。
ところが、その後保有していた高配当株の一部で業績予想の下方修正が発表されます。当初は一時的なものだろうと考えていましたが、その数ヵ月後には減配も公表されました。
高配当を期待して購入した銘柄だっただけに、勝彦さんの落胆は小さくありませんでした。さらに減配を嫌気した売りが広がり、株価も下落します。別の保有銘柄でも業績悪化や減配が続いたことで、証券口座の評価額は徐々に目減りしていきました。
「配当を受け取りながら長く持つつもりだったのに……」
勝彦さんはそうつぶやきながら、毎月のように口座残高を確認するようになりました。しかし、期待していたほど株価は回復せず、投資開始から約1年後に届いた通知で、保有企業のさらなる減配方針を知ることになります。
不安になって評価額を確認すると、2,000万円だった投資額は約1,750万円まで減少していました。年間100万円近くを見込んでいた配当収入も大幅に下振れする見通しとなり、勝彦さんはしばらく画面を見つめたまま動けなかったといいます。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22万2,000円に対し、消費支出は約26万4,000円。平均では毎月約4万2,000円の不足が生じています。老後は資産の取り崩しを前提とする家庭も多く、退職金は生活を支える重要な役割を担っています。
