老後の保険料、前年所得の落とし穴
国民健康保険料は前年所得を基準に計算されます。退職前の高橋さんは大企業の部長職として高い給与を受け取っていました。そのため、退職後も前年所得をもとに高額な保険料が課されていたのです。
もちろん、制度を恨んだところで仕方がありません。しかし、世界一周旅行で2,000万円を使った直後だったこともあり、高橋さん夫婦の心境は大きく変わりました。残りの手元資産は約3,000万円。そこから100万円以上の国民健康保険料を支払うことになります。夫婦の年金収入は合計で月25万円ほど。
「このままで本当に大丈夫なの!?」
旅行中には一度も考えなかった老後のお金の不安が、一気に現実味を帯びてきたのです。高橋さんは何度も通知書を見返しました。あれほど楽しかった世界一周旅行の余韻は、いつの間にか将来への不安へと変わっていました。
老後に表面化する「見えない不安」の正体
総務省の「家計調査(2025)」によると、高齢夫婦無職世帯の平均的な実収入は月25万円前後である一方、消費支出は約28万円となっています。平均的な暮らしの高齢夫婦世帯でも、公的年金だけでは毎月不足が生じるケースが珍しくありません。
その不足分を補うためには、現役時代に築いた資産を取り崩したり、資産運用を活用したり、あるいは退職後も働いて収入を得たりする必要があります。
また、高橋さんのように退職直後の国民健康保険料に驚くケースも少なくありません。こうした現役時代の残り香ともいえるコストは、制度を知っていれば対策を打つことが可能です。
退職後にパート勤務などで社会保険へ加入すれば、国民健康保険ではなく勤務先の健康保険に加入できる場合があり、負担を大幅に抑えることもできます。
さらに、退職前に加入していた健康保険を「任意継続する」という選択肢もあります。加入していた健康保険組合にもよりますが、上限額が設定されているため、結果的に国民健康保険より負担が軽くなることも。
重要なのは、制度を知ったうえで比較検討することです。そしてなにより大切なのは、自分たちの収入と支出を見える化することです。年金はいくら受け取ることができ、現在の支出はどの程度か。何歳まで生きた場合に資産がどうなるのか。——その結果をみれば、「旅行に2,000万円使っても大丈夫なのか」「1,000万円に抑えるべきなのか」といった具体的なマネープランがみえてきます。
若いころから働き続け、退職金や資産を築いてきたのですから、旅行や趣味、思い出づくりにお金を使うこと自体は決して悪いことではありません。むしろ、高橋さん夫婦にとって世界一周旅行は人生の大切な経験になったことでしょう。
しかし、その支出が老後資金全体のなかでどのような意味を持つのか、事前に確認せずに使ってしまうと、高橋さん夫婦のようにあとから不安に襲われることもあります。確認していれば、帰国後、必要以上の不安を抱えることもなかったでしょう。老後のお金は、「使うな」ではなく、「計画して使う」が大切なのです。
老後資金は“使う前”にシミュレーションする
特に退職直後は、健康保険料や税金など現役時代には意識しなかった支出が発生しがちなもの。老後資金で重要なのは、金額の多寡ではなく、全体像を把握しているかどうかです。
現在の資産、年金、支出、将来のライフプランを整理し、何歳までにいくら必要なのかを確認し、そのうえで使いたいことにはむしろ積極的にお金を使えばよいのです。
人生を豊かにする思い出づくりと、老後資金の安心感。その両方を実現するためにも、まずは数字を見える化することから始めてみてはいかがでしょうか。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
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