(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親の家計は、子どもから見えにくいものです。年金額や預金残高、日々の支出を本人が詳しく話さない限り、家族は「困っているのか」「本当は余裕があるのか」を正確に把握できません。ときには、亡くなった後の遺品整理で、親が隠していたお金や思いを初めて知ることもあります。

「迷惑をかけたくなかった」…封筒に残されていた父の不安

高齢期には、医療や介護、葬儀、住宅修繕など、いつ発生するか分からない支出があります。厚生労働省『令和5年 国民生活基礎調査』でも、高齢者世帯では公的年金・恩給を主な所得としている世帯が多く、限られた収入で暮らす実態が示されています。

 

誠一さんにとって、通帳や封筒の現金は「余裕資金」ではありませんでした。それは、自分が倒れた時、子どもに迷惑をかけないための最後の備えだったのです。

 

直也さんは、父の部屋を改めて見回しました。

 

古い電気ストーブ、すり減った座布団、何年も使われた茶碗。そこには、父が自分の生活を小さくしながら、万一に備えてきた痕跡がありました。

 

「もっと使えばよかったのに、と思いました。でも父にとっては、使わないことが安心だったんだと思います」

 

遺品整理の後、直也さんは封筒の一つに入っていたメモをしばらく捨てられなかったといいます。そこにはたった一言、こう書かれていました。

 

「直也に迷惑をかけない」

 

父の「生活が苦しい」という言葉は、「嘘」ではありませんでした。限られた年金の中で、日々の暮らしと将来への不安を両方抱えながら、父は父なりに家計を守っていたのです。

 

親のお金の実態は、通帳の残高だけでは分かりません。何のために使わずに残していたのか。なぜ子どもに言えなかったのか。

 

亡き父の部屋から見つかった通帳と封筒は、直也さんに、父が最後まで抱えていた不安と意地を静かに伝えていました。

 

 

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