「祖母は贅沢していたわけではなかった」
調べていくうちに、勇作さんの受け止め方は少しずつ変わっていきました。
最初は、「誰かが使ったのではないか」と疑う気持ちもあったといいます。しかし、領収書や明細を確認すると、多くはフミさん自身の生活や介護のための支出でした。
有料老人ホームの費用、通院費、入院時の差額ベッド代、補聴器、介護用品。さらに、家の片づけや不用品処分にもまとまった費用がかかっていました。
「通帳の数字だけ見ると減ったように見えます。でも、一つひとつを見ると、祖母が生きるために必要だったお金なんですよね」
厚生労働省『令和5年介護サービス施設・事業所調査』によると、介護老人福祉施設は8,548施設あり、介護保険施設は多くの高齢者の暮らしを支える重要な受け皿になっています。一方で、施設入所や介護サービスには、本人の所得やサービス内容に応じた自己負担が生じます。
フミさんの場合、年金だけでは施設費や医療費を賄いきれず、預金や不動産の一部を取り崩して生活していました。
また、土地についても、すべてが自由に売れる資産ではありませんでした。古い建物が残り、共有名義の部分もあり、売却には時間と費用がかかります。相続人の間で評価額を確認すると、「5億円」という数字とは大きな開きがありました。
「資産がある=現金が残っている、ではないんだと初めて分かりました」
勇作さんはそう振り返ります。
その後、家族は相続人同士で財産目録を作り、税理士にも相談しました。預貯金、不動産、未払いの医療費、葬儀費用。数字を一つずつ整理していくと、祖母の晩年がどれだけ長く、どれだけお金のかかる時間だったかが見えてきたといいます。
「祖母は贅沢していたわけではありませんでした。ただ、90歳まで生きるということ自体に、お金がかかっていたんです」
相続は、残された財産を分ける手続きであると同時に、亡くなった人の暮らしの最後をたどる作業でもあります。通帳に残っていた想定外の数字は、家族が知らないところで続いていた、祖母の長い老後の記録だったのです。
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