「老後は自然の中で暮らしたい」…60代夫婦が選んだ地方移住
東京都内で暮らしていた修司さん(仮名・68歳)と妻の明子さん(仮名・66歳)は、地方移住を決断しました。
修司さんは公務員を定年退職。夫婦の年金収入は月17万円ほどで、退職金を含めた金融資産は約1,500万円ありました。
「東京で節約しながら暮らすより、地方でのんびりしたほうがいいと思ったんです」
きっかけは、旅行でした。
海と山に囲まれた地方都市。空気は穏やかで、地元の人も親切でした。中古住宅の価格も都内とは比べものにならないほど安く、「これなら老後資金にも余裕ができる」と感じたといいます。
夫婦は都内のマンションを売却し、築30年ほどの一戸建てを購入しました。
娘の麻衣さん(仮名・39歳)は、最初こそ驚いたものの、「二人が幸せなら」と送り出しました。
移住直後、夫婦は充実しているように見えました。庭で家庭菜園を始め、地元の直売所へ通う。朝は鳥の声で目を覚まし、夜は静かな時間を過ごす。
「やっと自分たちらしい生活ができる」
修司さんはそう話していたといいます。
国土交通省『住宅市場動向調査』でも、住み替え時には住宅価格だけでなく、周辺環境や暮らしやすさを重視する人がいることが示されています。
しかし、生活は少しずつ変わっていきました。最初に異変を感じたのは、娘の麻衣さんでした。電話の回数が減ったのです。
以前は頻繁に送られてきていた写真も減り、母との会話にもどこか元気がありません。
「大丈夫?」と聞いても、
「平気よ」
としか返ってきませんでした。
そして移住から5ヵ月後、麻衣さんが久しぶりに実家を訪れたとき、言葉を失います。
庭は雑草だらけ。家の中には開封されていない段ボールが積まれ、居間にはコンビニ弁当の空き容器が残っていました。
さらに驚いたのは、父の様子でした。以前は身なりに気を遣っていた修司さんが、髭を伸ばしたまま無気力にテレビを見ていたのです。
「何があったの…?」
麻衣さんは、思わずそう口にしました。
