家族を想う母の「タンス預金」が招いた悲劇
あとになってAさんが思い当たったのは、母にはある「経験」があったということです。
それは5年前、父が亡くなった際の相続税申告です。当時、相続税の納税や手続きに家族が苦労した経験から、「子どもたちにすぐ使える現金を残しておいてあげよう」と生前から少しずつ引き出し、自宅金庫に保管していたのだと想像できます。
高齢者のなかには、「現金で持っていたほうが安心」「銀行は信用できない」「家族に迷惑をかけたくない」という理由で、タンス預金や金庫保管をする人が少なくありません。
しかし、銀行から引き出していても、その現金は相続財産です。「口座にないからわからないだろう」は通用しないのです。
【税理士が解説】「家族も知らなかった財産」があとから見つかる恐ろしさ
今回、兄弟は本当に現金の存在を知らなかったため、「仮装隠蔽」とは判断されず、重加算税までは課せられませんでした(過少申告加算税と延滞税の負担はあり)。ただし、もし相続人が存在を認識して意図的に隠していた場合は、さらに重いペナルティが課される可能性があります。
近年は、タンス預金や金庫保管の現金について、調査が厳しい傾向にあります。
相続の現場では、「家族も知らなかった財産」があとから見つかるケースは決して珍しくありません。もし自宅に開かずの金庫を見つけた場合は、業者を呼んででも早急に開けてみることをおすすめします。
だからこそ、相続が発生した際には、預金残高だけでなく、生前の入出金履歴や過去の相続財産、自宅保管の現金の有無まで丁寧に確認することが重要です。
税務調査官は、想像以上に細かく「お金の流れ」を見ています。そして、“開かずの金庫”も、決して見逃してはくれないのです。
根津 拓矢
パンタレイ税理士事務所
税理士/行政書士/CFP®/1級FP
