資金需要の底堅さと実体経済の停滞が招く不透明感
現在のフィリピン経済は、好材料と懸念材料が複雑に交錯する局面にあります。3月の銀行貸出統計が示す堅調な資金需要がポジティブな側面である一方、2026年第1四半期の実質GDP成長率は2.8%にとどまり、景気の勢いは想定以上に弱含んでいます。さらに、サラ・ドゥテルテ副大統領を巡る弾劾問題も浮上し、金融面と政治面の両方から先行きの不透明感が強まっています。現在のフィリピン経済は、資金需要の底堅さが見える一方で、実体経済の伸び悩みと政局リスクが重しとなる局面に入ったといえるでしょう。
まず注目されるのは、銀行貸出の伸びが加速している点です。3月の銀行貸出は前年比10.7%増となり、2月の9.6%増からさらに拡大しました。流動性も高い水準を維持しており、企業や家計への資金供給は依然として活発です。特に生産関連の貸出が堅調で、エネルギー、運輸、商業、不動産など幅広い分野が全体を押し上げています。これは、企業が運転資金を厚めに確保し、将来の金利上昇やコスト増に備えて前倒しで資金調達を行っている可能性を示唆しています。
家計部門においても、信用需要は底堅さを保っています。消費者ローン、特にクレジットカード利用の拡大が顕著です。これはインフレ圧力が継続する中でも、家計が一定の消費活動を維持していることを示しています。個人消費はフィリピン経済の主柱であり、消費者向け融資の拡大は当面の景気下支え要因として機能しています。
しかし、こうした貸出の強さとは対照的に、第1四半期のGDPは力強さを欠く結果となりました。フィリピン統計庁(PSA)によると、2026年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比2.8%にとどまりました。サービス部門が成長を牽引した一方で、農林水産業と工業はともにマイナス成長を記録しました。需要項目別では、家計最終消費(3.0%増)がプラスとなった反面、総資本形成(投資)は3.3%減と落ち込みました。消費が支えつつも、生産と投資の弱さが全体の成長率を抑制している構図です。
この「貸出増と低成長」の乖離は極めて重要です。借り入れが必ずしも生産拡大に結びついておらず、不透明な環境に備えた「防衛的な資金確保」の側面が強いと推察されます。また、高金利環境が長期化すれば、将来的に延滞率の上昇や貸倒れの増加として表面化するリスクを孕んでいます。

