(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の親が一人暮らしを続けることに、家族が不安を抱くケースは少なくありません。転倒、急病、火の不始末、認知機能の低下。離れて暮らす子どもにとって、施設入居は「安心のための選択」に見えることがあります。しかし、本人にとっては住まいだけでなく、生活の自由や人間関係まで大きく変わる決断です。安全と納得は、必ずしも同じではありません。

「安全だけど…」施設で感じた自由の喪失

和枝さんが感じ始めた違和感は、「自分のペースで生活できないこと」でした。

 

朝食は決まった時間に食堂へ行き、入浴日も曜日で決まっています。外出には事前の届け出が必要で、体調確認のために職員から声をかけられることもあります。

 

どれも安全管理のために必要なことです。それでも、和枝さんには少しずつ窮屈に感じられました。

 

「今日は少し遅く起きたいとか、昼はパンだけでいいとか、そういう小さな自由がなくなった気がしました」

 

さらに、周囲の入居者との関係にも戸惑いがありました。

 

食堂では会話が弾む日もありましたが、体調や認知機能に差がある人も多く、以前の友人関係とは違います。職員は親切でしたが、忙しそうで、長く話し込むことはできません。

 

ある日、面会に来た長男に、和枝さんは思わずこぼしました。

 

「ここで暮らすしかないの…?」

 

長男は驚いた表情を見せました。施設に入れば安心だと考えていたものの、母が悩んでいるとは思っていなかったのです。

 

「嫌なら無理しなくていいよ」

 

そう言われても、和枝さんはすぐには答えられませんでした。自宅に戻る不安も、施設で暮らす違和感も、どちらも本物だったからです。

 

その後、家族はケアマネジャーに相談し、選択肢を改めて整理しました。自宅に戻るなら、手すりの設置、見守りサービス、訪問介護、配食サービスを組み合わせる方法があります。一方で施設に残るなら、外出や友人との交流を増やし、和枝さんらしい生活を取り戻す工夫も必要でした。

 

現在、和枝さんは施設に住み続けながら、月に数回は以前の友人と外で会うようになりました。自宅をすぐに処分せず、将来的な選択肢として残しています。

 

施設入居は、家族にとって安心を得る選択です。しかし本人にとっては、それまでの暮らしを手放す決断でもあります。安全な場所に移ることと、納得して暮らすことは別の問題です。

 

和枝さんの違和感は、施設そのものへの不満というより、「自分の人生を自分で選べているか」という問いだったのかもしれません。

 

 

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