「安全だけど…」施設で感じた自由の喪失
和枝さんが感じ始めた違和感は、「自分のペースで生活できないこと」でした。
朝食は決まった時間に食堂へ行き、入浴日も曜日で決まっています。外出には事前の届け出が必要で、体調確認のために職員から声をかけられることもあります。
どれも安全管理のために必要なことです。それでも、和枝さんには少しずつ窮屈に感じられました。
「今日は少し遅く起きたいとか、昼はパンだけでいいとか、そういう小さな自由がなくなった気がしました」
さらに、周囲の入居者との関係にも戸惑いがありました。
食堂では会話が弾む日もありましたが、体調や認知機能に差がある人も多く、以前の友人関係とは違います。職員は親切でしたが、忙しそうで、長く話し込むことはできません。
ある日、面会に来た長男に、和枝さんは思わずこぼしました。
「ここで暮らすしかないの…?」
長男は驚いた表情を見せました。施設に入れば安心だと考えていたものの、母が悩んでいるとは思っていなかったのです。
「嫌なら無理しなくていいよ」
そう言われても、和枝さんはすぐには答えられませんでした。自宅に戻る不安も、施設で暮らす違和感も、どちらも本物だったからです。
その後、家族はケアマネジャーに相談し、選択肢を改めて整理しました。自宅に戻るなら、手すりの設置、見守りサービス、訪問介護、配食サービスを組み合わせる方法があります。一方で施設に残るなら、外出や友人との交流を増やし、和枝さんらしい生活を取り戻す工夫も必要でした。
現在、和枝さんは施設に住み続けながら、月に数回は以前の友人と外で会うようになりました。自宅をすぐに処分せず、将来的な選択肢として残しています。
施設入居は、家族にとって安心を得る選択です。しかし本人にとっては、それまでの暮らしを手放す決断でもあります。安全な場所に移ることと、納得して暮らすことは別の問題です。
和枝さんの違和感は、施設そのものへの不満というより、「自分の人生を自分で選べているか」という問いだったのかもしれません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
