45歳娘の「突然の自立」に母、唖然
加藤まり子さん(仮名・68歳)は、夫・泰三さん(仮名・71歳)と、一人娘の美香さん(仮名・45歳)の3人で暮らしてきました。泰三さんは大手企業の幹部を務めて退職。現在は潤沢な年金に加え、現役時代の蓄えも十分にある、いわゆる「勝ち組」の家庭です。
娘の美香さんは都内の企業で働いており、年収は500万円強。独身で「通勤に便利」と一度も実家を出たことはありません。ところが、美香さんは45歳の誕生日を迎えた夜、衝撃の告白をします。
「実はね、職場の近くにマンションを買ったの。驚いた? 再来月、引っ越すから」
まり子さんは突然のことに言葉を失いました。確かに「家が欲しい」「一人暮らししようかな」と美香さんが呟くことはありましたが、なんだかんだ、ずっと3人で暮らすものと考えていたからです。
「45歳になって、やっぱり自立しないとって思ったの。結婚も完全に諦めたし、実家にいさせてもらって貯金もできた。今がいい機会かなって」
地獄の夫婦2人暮らしへ
美香さんが去った後、加藤家には静寂が訪れました。
夫婦の年金は月30万円を超え、貯蓄も5,000万円以上。経済的な不安はありません。娘が家に入れていたお金も、もともと貯金に回しており、生活レベルを落とす必要もありません。まり子さんが苦悩したのは、お金の問題ではなく「夫との無言の時間」でした。
これまでは、美香さんが夫婦のクッション材となっていました。仕事の愚痴、週末の予定――美香さんが話す話題を中心に会話が広がる。それが加藤家の団らんでした。
夫自身は家事を手伝わず、趣味もなく、病院や散歩以外はテレビを見ているような人です。2人だけの時間がしばらく続くと、まり子さんはストレスを抱え、体調を崩すまでになっていました。
「死ぬまで、この人と2人で? 無理だわ……」
耐えかねたまり子さんは、美香さんにLINEを送ろうとスマホを手に取りました。
「1人は大変じゃない? お母さんは美香がいなくて、とっても寂しい。生活費なんていらないから、お願い。戻ってきて」
――しかし、まり子さんは、送信を思いとどまりました。娘は45歳にしてようやく親から離れ、自分の足で歩き始めたのです。それを自分の寂しさという理由で引き戻すのは、親として失格だと……。

