(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金への不安が高まるなか、現役時代から堅実に貯蓄を続ける人は少なくありません。備えはもちろん大切です。しかし、将来への不安が強すぎるあまり、必要以上に生活を切り詰め、人生の楽しみまで後回しにしてしまうケースもあります。

「もっと妻と出かければよかった」資産が残っても戻らない時間

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、健康上の問題で日常生活に制限のない期間を示す健康寿命は、令和4年時点で男性72.57年、女性75.45年です。平均寿命とは差があり、「元気に動ける時間」は無限ではありません。

 

もちろん、森田さんの堅実さが間違っていたわけではありません。老後資金を備えたからこそ、今の生活に大きな不安はありません。ただ、問題は「使わないこと」が目的になってしまった点でした。

 

「節約していると、ちゃんとしている気がするんです。でも、それで妻との時間まで削っていたのなら、何のための貯金だったのか分からない」

 

最近、森田さんは少しずつお金の使い方を変えています。月に一度は妻と外食をする。近場のホテルに泊まる。孫の誕生日には、現金ではなく一緒に選んだ本を贈る。

 

「大きな贅沢じゃなくていいんです。ただ、思い出に残る使い方をしたい」

 

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査』でも、金融資産の平均値は一部の高額資産保有世帯に影響されやすく、中央値も合わせて見る必要があると説明されています。資産額だけで老後の安心や満足を測ることはできません。

 

「こんなに我慢しなくてもよかったのかもしれない」

 

森田さんは、そう静かに語ります。

 

貯めることは、将来を守る手段です。しかし、人生の時間は貯蓄のように後から引き出すことができません。森田さんの後悔は、老後資金の多寡ではなく、「いつ、何のために使うのか」を考える難しさを物語っています。

 

 

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