「娘と孫」を支えるため…平穏な日々が一変
正志さん(仮名・67歳)と妻は、数年前にそろって現役を引退しました。現在の収入は、夫婦合わせて月25万円ほどの年金。加えて、これまでに蓄えた金融資産は約3,500万円ありました。
「贅沢しなければ、十分やっていけると思っていました。旅行も年に1回くらいなら問題ないし、あとは家でゆっくり過ごせればいいと」
実際、夫婦の生活は落ち着いたものでした。朝は近所を散歩し、昼はテレビや読書、時には日帰りで温泉へ。いわゆる「理想的な老後」に近い日々だったといいます。
しかしある日、長女から電話がかかってきます。
「ちょっと相談があるんだけど…」
長女は都内で夫と小学生の娘と暮らしていましたが、夫婦関係が悪化し、別居に至ったといいます。その後、離婚が成立。長女は子どもを引き取り、実家の近くに戻ってくることになりました。
「最初は、一時的なものだと思っていました。落ち着くまでの間、少し助けてあげればいいと」
正志さん夫婦は、長女と孫の生活を支えるため、毎月の生活費として10万円を援助することにしました。さらに、孫の学用品や習い事の費用も一部負担するようになります。
「孫には不自由させたくなかったんです。環境が変わって大変な思いをしているだろうし」
当初は「数ヵ月程度」の想定でした。しかし、状況は思うようには改善しませんでした。
長女はパート勤務を始めたものの、子育てとの両立は簡単ではなく、収入は安定しません。養育費も、元夫から十分に支払われているとは言えない状況でした。
「もう少しだけ助けてほしい」
その言葉を断ることはできませんでした。こうして援助は半年、1年と続いていきます。
一方で、家計への影響もじわじわと現れていました。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年(令和7年)平均結果の概要』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の平均可処分所得は月約22万1,544円、消費支出は約26万3,979円と、平均で赤字となっています。つまり、平均的な世帯でも貯蓄の取り崩しが前提となる構造です。
正志さん夫婦の場合、そこに毎月10万円の援助が上乗せされている状況でした。
「正直、貯金の減り方が早いなとは感じていました。でも、やめるという選択肢はそのときはなかったんです」
