大手企業に勤める自慢の息子「FIREしました、もう働きません」
都内在住の天野喜朗さん(仮名・65歳)は、この日を楽しみにしていました。一人息子・直樹さん(38歳)が、久しぶりに実家に帰省するというのです。
直樹さんは、大手IT企業に勤める自慢の息子。その直樹さんが「大事な報告がある」と切り出したのは、夕食の席でした。
「父さん、母さん。僕、先月で会社辞めたんだ。もう一生、働かないで生きられる目処がたったから」
驚く両親を前に、直樹さんは意気揚々と語りました。徹底した節約と投資で、40代を前にして5,000万円の資産を築いたこと。これからは「FIRE(早期リタイア)」をして自由な時間を生きること。
「仕事だけで終わるなんて嫌だった。自分の人生を取り戻したいんだ。今のところ結婚する気もないし、やっていけるよ。準備ができたら海外を見て回るつもり」
もちろん喜朗さんは戸惑いました。しかし、若くして資産を築いた息子の努力は認めなければなりません。会社員で一生を終えるだけが人生ではないことは理解していると、息子の背中を押そうとしました。
「そうか。お前の人生だ、しっかり準備したのなら……」と、お祝いのお酒を開けようとしたその時です。喜朗さんの脳裏にある不安がよぎりました。
「でも直樹、5,000万円で本当に一生分足りるのか? 物価も上がっているし、もし病気にでもなったら。ちょっと頼りないんじゃないか」
すると、直樹さんは事もなげに、まさかの一言を放ったのです。
5,000万円だけではない…FIREの試算に組み込んでいた「まさかのお金」
「大丈夫だよ。5,000万円だけじゃなくて、父さんたちからもらう遺産も、計算に入れているから」
一瞬にして、食卓の空気が凍りつきました。直樹さんはさらに続けます。
「実家も財産も、いずれは僕が相続するだろ? ここの土地だけでも、かなりの金額になるだろうからね。父さんのおかげで僕は辞められるんだ。ありがとう」
これまで自分たちを尊敬する両親として見てくれていると信じていた喜朗さんは、自分が息子の「利回り計算」に組み込まれた事実に、怒りと虚しさを覚えました。
「確かに、いつかは息子にすべてを渡すことになります。ですが、親の遺産を計算にいれて早期退職するのは、違うんじゃないでしょうか。親不孝な発言をするものだと呆れてしまいました」

