(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金を十分に準備できていれば、働かずに暮らすという選択も現実的になります。しかし実際の生活は、お金だけで成り立つものではありません。健康状態や日常の安全、周囲との関わり方など、想定していなかった要素が暮らしに影響を与えることがあります。資産の多寡とは別に、生活のあり方そのものを見直す局面が訪れることもあります。

「もう働かなくていい」と思っていたが――揺らいだ想定

佐々木さん(仮名・64歳)は、現役時代から徹底した倹約と資産運用を続けてきました。大手メーカーに勤務しながら、支出を抑え、余剰資金を積み立てと投資に回す生活を長年続けてきたといいます。

 

退職を目前にした時点で、資産は7,000万円を超えていました。

 

「ここまで来れば、無理に働かなくてもいいと思っていました」

 

年金の受給見込みは月20万円弱。住宅ローンも完済済みで、単身生活。生活費を抑えれば、資産を取り崩しながらでも十分に暮らせる計算でした。

 

総務省『家計調査(2025年)』によると、高齢単身無職世帯の平均消費支出は月14.8万円です。佐々木さんの想定では、年金で大半を賄い、不足分を資産で補う形でした。

 

「むしろ、時間のほうが大事だと思っていました。やりたいことをやる生活に切り替えようと」

 

仕事を辞めた後は、旅行や読書、趣味に時間を使う生活を思い描いていました。ところが、その前提を揺るがす出来事が起きます。

 

ある冬の日の夜でした。入浴中、佐々木さんは立ち上がろうとした瞬間、強いめまいに襲われました。

 

「急に力が抜けて、立てなくなったんです」

 

浴室の床に手をついたまま、しばらく動けなかったといいます。転倒こそ免れましたが、体を起こすことができず、その場で時間が過ぎていきました。

 

「携帯も持っていなかったので、誰にも連絡できませんでした」

 

幸い、数分後にはめまいが収まり、なんとか自力で立ち上がることができました。しかし、そのときに感じたのは「怖さ」だったといいます。

 

「もしあのまま動けなかったら、どうなっていたのかと」

 

それまで、自分は健康で問題なく一人暮らしができると考えていました。資産もあり、生活面での不安は少ないと思っていたといいます。

 

「お金の問題ではないところで、初めて不安を感じました」

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、高齢者の単独世帯は増加が続いています。日常生活におけるリスク対応の重要性が指摘されており、特に入浴中の事故は高齢者に多く、家庭内でのリスクの一つとされています。

 

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