離婚による夫の金銭的ダメージ
「1円も払いたくない」――太郎さんからすると、そう思う気持ちはわからなくもありません。
しかし、別居中であっても、離婚が成立するまでは夫は妻に自分と同水準の生活を保障する義務(婚姻費用)があります。太郎さんが無職であっても、数千万の預貯金や退職金があるため、そこから支払う能力があるとみなされます。美智子さんのパート収入が少ない以上、太郎さんは毎月一定額を送り続けなければなりません。
特に年金受給が始まる65歳までの5年間は、1円の収入もないまま、手元の貯金を切り崩して自分と妻の二重生活を支えることになります。
さらに、もし離婚となれば、財産分与が必要です。財産分与は、預貯金の全額を分けるわけではありません。対象となるのは、あくまで「結婚から別居までに夫婦で協力して蓄えた財産」です。
ただ、太郎さんのように20代で結婚し、定年まで添い遂げるつもりだった夫婦の場合、資産の9割以上が共有財産とみなされるケースが多く、実質的には「ほぼ半分」を失う事実に変わりはありません。
退職金と貯金2,800万円のおよそ半分が美智子さんへ。それに加えて自宅の精算。仮に時価3,000万円であれば、その半分の価値である1,500万円です。つまり、太郎さんがこの家に住み続けたいなら、美智子さんに合計2,900万円程度の現金を渡さなければなりません。
また「年金分割」という制度も忘れてはなりません。太郎さんの年金月17万円(基礎年金6.5万+厚生年金10.5万)のうち厚生年金部分の多くが分割対象となり、太郎さんの受取額は月13〜14万円程度まで目減りする計算です。
親からの不動産相続があるとはいえ、親が健在なうちは1円にもなりません。それどころか、不動産をすぐ相続すれば、その資産価値ゆえに「妻への婚姻費用(生活費)」の支払い額が増える可能性すらあります。
太郎さんの手元にある現金は合計2,800万円。もし離婚となり、美智子さんに法的な取り分を支払うと、手元のキャッシュはほぼゼロになります。年金受給までの無職期間をどう生き抜くか、あるいは住み慣れた家を売却して現金を作るか――。
「妻のへそくり500万円も半分だ」と主張はできますが、別居後の生活費として使い込まれれば、取り戻すのは容易ではありません。
年間4万件以上の熟年離婚…老後の計画を立てる前にやるべきこと
厚生労働省の「人口動態統計月報年計(概数)の概況」によれば、令和6年の離婚件数は18万5,895組(前年より2,081組増)。このうち婚姻期間20年以上の熟年離婚は4万686組(前年より876組増)で、全体の約2割を占めており、決して他人事ではありません。
熟年離婚を回避するために必要なのは、仕事を言い訳にせず、家事に参加し、自分のことは自分でする。相手を対等なパートナーとして尊重するといった、日々の小さな積み重ねです。
太郎さんが定年前に準備すべきだったのは、老後の資金計画や一方的に語る夢ではなく、妻が隣にいてくれることを当たり前と思わない想像力と、自立した生活力だったのです。
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