「老後は妻と一緒に」…再雇用の道を選ばなかった夫
都内の中小メーカーに勤務していた小塚太郎さん(60歳・仮名)。年収はピーク時で900万円、住宅ローンも完済し、順風満帆な会社員人生のフィナーレを迎えようとしていました。
「俺は60歳できっぱり辞める」
太郎さんは、再雇用(雇用継続)の道を選びませんでした。年収が4割近く減る。部下が上司になる。そんな中で5年間憂鬱に働くよりも、自由になりたいと思ったのです。
退職金は1,500万円、貯金は1,300万円。さらに太郎さんには、両親から不動産相続の予定もあり、それが5,000万円ほどの見込み。65歳になれば月17万円程度の年金も受け取れます。
「これだけあれば問題ない」。太郎さんは自分の資金計画に絶対の自信を持っていました。
60歳で仕事を辞めると妻の美智子さん(57歳・パート年収100万円)に宣言したのは半年ほど前のこと。それからというもの、太郎さんは「夫婦の老後」の計画に夢中でした。温泉旅行、豪華客船の旅、高級レストラン……。
美智子さんは「そうね」と力なく微笑むだけでしたが、太郎さんはそれを同意だと信じて疑いませんでした。
しかし、定年退職まで、あと1週間に迫った日。仕事から帰った太郎さんを待っていたのは、ガランとしたリビングと、ダイニングテーブルに置かれた一通の手紙でした。
「静かなる決別」の理由
手紙には、太郎さんが想像もしなかった本音が綴られていました。
「あなたが60歳で辞めると言ったあの日、私は目の前が真っ暗になりました。あと5年、あなたが働いている間に心の準備をするつもりだったのに。これまで家事一つ手伝わず、会話もなかったあなたと、24時間一緒は無理。いろいろやりたいことがあったみたいだけど、一人で夢を見ていてください――」
美智子さんは、着々と準備を進めていました。パートのシフトを増やし、結婚以来コツコツ貯めていた約500万円のへそくりを手に、すでに一人暮らし用のアパートを契約していたのです。
「ふざけるなよ……勝手に出て行くなら1円たりとも払わん!」

