「独自の魅力」が入居者たちを引き寄せる
これからは「心の時代」です。心の充足や自己実現の欲求に根ざした商品を供給することが、人口減少社会の中で生き残る唯一の道だと、私は考えています。迫りくる人口減少社会においても、人の心を幸せにしたり、人の心を満足させるといった絶対的な価値をお客様に与えることができれば、その価値を中心にしたマーケットを築くことができるはずです。
その証拠に、ガラガラの飲食店がたくさんある街でも、「ここでしか食べられないおいしさ」を提供する店には行列ができています。不景気で日本人が余計なことにお金を払わなくなった時代とはいえ、そこに行くことで満足感や幸せを感じることができるなら、人々はわざわざ足を運びますし、並んででもお金を払うのです。
そんな時代の賃貸マンションに必要な本質をひと言でいい表すなら「尖った魅力」ということになるでしょう。行列のできる飲食店が持つような強い個性、他のどこも真似できないような本物の魅力、人の心にグサリと突き刺さって抜けないような鋭い魅力、そんな魅力を提供できれば、厳しくなる一方の賃貸マンション市場でも、負けることはありません。
では、心を突き刺すような尖った魅力を持つ賃貸マンションとは、どんなものでしょうか?それは、「私はこういう生活をしたい」という強いニーズを持った人たちが、そのためには、「このマンションでなければ絶対にムリ」と思えるような特徴や機能を備えたマンションだと考えます。
飲食店を例にするなら、「安くてお腹が一杯になるものを何でもいいから食べたい」と思うお客様をターゲットにするよりも、「東京で一番おいしいベトナム料理が食べたい」というお客様を引き込むのです。
なぜなら、本当においしいベトナム料理を食べたいお客様に対して、そのニーズに応える料理を提供すれば、少し遠くてもわざわざ足を運んできてくれるからです。反対に、安くてお腹が一杯になるような店はどこにでもあるので、立地や価格などで競合店に負けない工夫を凝らさなければ、選ばれるのは難しいでしょう。賃貸マンションも同じです。そこでしか得られない価値を提供することで、入居者たちを引き寄せることができるのです。
大切なのは「ここでしか叶えられない暮らし」の追求
実は、私はこれまでのマンション作りには、反省すべき点があると考えています。それは、マンションを提供する側が、「住まい」という人生における大切な課題に取り組んでいるにもかかわらず、外観がタイル張りだとか、光り輝くフローリングだとか、最新の設備があるかどうかというふうに、いってみれば「暮らしの本質ではない部分」に力を注ぎ込み、安易にお客様の目をひこうと考えてきたという点です。
本来ならばもっと、住む人たちが「どういう暮らしをしたいか」「住まいにどんな意味を求めるのか」といった深い部分に踏み込んで、マンション作りをすべきなのではないでしょうか。それなのに、目先のきれいさや目新しさを優先し、「このマンションでなくては絶対にムリ」というものを何ひとつ入居者に提供できないような建物を、私たちは作り続けてきてしまったのです。
本質的な部分に特徴のないマンションは、これから先もリフォームなどで、小さな付加価値をつけるくらいしか、闘うすべがありません。しかし、そんな方法は、すぐに陳腐化してしまいます。たとえば、今、バス・トイレが一緒になったいわゆる〝三点ユニットバス〟物件で、入居者募集に苦労されている大家さんが増えています。これを工事してバスとトイレに分けたところで、平均に戻るだけで、プラスにはなりません。お金をかけても、元が取れるかわからないのです。
そんなマンションを建ててしまえば、30年後、40年後に苦労することは目に見えています。「ここでしか叶えられない暮らし」を実現できる尖った魅力のあるマンションを提供することは、簡単ではないかもしれません。しかし、住む人たちの夢や幸せに直結するマンションを作ることは、やりがいも、そして得られるリターンも大きいのです。