「一緒に暮らそう」息子の言葉に救われた母
和枝さん(仮名・84歳)は、夫を亡くしてから一人暮らしを続けていました。収入は年金月9万円ほど。貯蓄は50万円程度しかなく、家賃や光熱費、食費を払うと、毎月の生活はぎりぎりでした。
「贅沢なんてしていませんでした。電気代を気にして、暖房もなるべく我慢していました」
食事も簡単なものが中心でした。朝は食パン、昼は抜くこともあり、夜は安い惣菜を少し。体調に不安があっても、通院費を考えると受診を先延ばしにすることもあったといいます。
総務省『家計調査(2025年)』によると、高齢単身無職世帯の可処分所得は月約11.8万円、消費支出は月約14.8万円です。和枝さんの年金月9万円はこの水準を下回り、一人で暮らし続けるにはかなり厳しい状況でした。
そんな母を見かねたのが、長男の誠さん(仮名・56歳)でした。誠さんは妻と2人暮らしで、子どもはすでに独立していました。
ある日、実家を訪れた誠さんは、冷蔵庫の中を見て言葉を失ったといいます。卵と豆腐、飲みかけの牛乳。棚にはインスタント食品が数袋だけでした。
「母さん、このままじゃだめだよ」
そう言われても、和枝さんは最初、笑ってごまかしました。
「大丈夫よ。年寄りはそんなに食べなくても平気だから」
しかし、誠さんは引きませんでした。
「一緒に暮らそう。うちに来れば、少なくとも食べるものや光熱費の心配は減るから」
その言葉に、和枝さんは胸が熱くなったといいます。
「正直、救われた気がしました。もう一人でお金の心配をしなくていいんだと思って」
こうして和枝さんは、住み慣れた部屋を引き払い、息子夫婦の家で暮らし始めました。
最初の1ヵ月は、穏やかでした。朝食を一緒に食べ、日中はテレビを見たり、近所を散歩したりする。食卓には温かい食事が並び、夜も寒さを我慢せずに眠れるようになりました。
「こんなに安心して寝られるのは久しぶりでした」
しかし、暮らしが落ち着くにつれて、少しずつ別の問題が見えてきました。
