自宅を担保に、妻を連帯保証人にしていた会社経営
妻の問い詰めは、最も触れられたくない部分へとおよびました。「自宅、担保に入れてるよね。私も連帯保証人のままよね」。
夫はなにもいわないので、妻はポツリといいました。「ずっと応援してたのに」。
事業拡大のために、会社単体の信用では借り入れが増やせず、妻が保証人になり、自宅を担保に入れることも、彼女は覚悟を持って受け入れてきました。しかし、リスクをともに負っている立場でありながら、肝心な窮状を隠されていたことに、耐え難いショックを受けたのです。安田社長は、多額の借入そのものではなく、「誠実さの欠如」によって妻の信頼を完全に失ってしまいました。
連帯保証人の重み…初めから無理があった保証構造
離婚成立から3週間後のことです。銀行からの電話は事務的でした。「奥様が保証人から外れる件ですが、保証構造の見直しが必要です」。
借入は約2億円。保証人は、本人・妻・父の3名でしたが、父は高齢で新たな保証能力は期待できません。銀行の要求は明確でした。「代わりの保証人を用意するか、担保を積み増すか」です。
安田社長は血縁、友人、経営者仲間、思いつく限りの人に声をかけましたが、返ってくるのは、すべて「無理だ」の返答。保証人とは、会社が崩れた瞬間に自分の人生を差し出す契約です。その本質を理解している人ほど、容易に引き受けることはありません。やがて銀行は次の選択肢として追加担保を提示してきましたが、差し出せる資産はすでに尽きていました。
ここで初めて、安田社長は理解します。問題は業績の良し悪しではなく、最初から資金調達の構造が破綻していたということを。
銀行に見捨てられる瞬間
数日後、銀行との面談が設定されました。場所も担当者も依然と同じでしたが、空気だけが明らかに変わっていました。これまでは「どう拡大していくか」という前向きな議論だったものが、「どう返済するのか」という確認へとシフトしていたのです。
銀行側の発言は丁寧ですが、内容は冷徹でした。既存借入の返済方法や追加資料の提出ばかりを求められました。そして最後に、こう告げられます。
「今後は、慎重に対応させていただきます」
この言葉の重みを、正確に理解している経営者は多くないでしょう。これは事実上の「これ以上は貸さない」という意思表示です。やがて短期融資の更新が渋られ、返済条件の見直しを求められるようになります。
銀行は極めて合理的です。信用や担保以上にリスクが高まったと判断すれば、回収できるうちに回収する。それだけなのです。多くの経営者はこの変化を「突然」と感じますが、実際には見捨てられたのではなく、最初から構造に欠陥があったに過ぎないのです。

