「一緒にいるのがつらい」74歳で選んだ別居
夕食後、何気ない会話をしていたときのこと。明夫さんが翌月の旅行の話をし始めると、洋子さんは静かにこう言いました。
「ごめんなさい、もう限界です」
「何が?」と聞き返され、洋子さんはしばらく言葉に詰まりました。それでもなんとか伝えたといいます。
「あなたがいるだけで苦しいの。少し離れて暮らしたい」
自分でもひどい言い方だと思ったそうです。けれどそれ以上やわらかい表現では、自分のつらさが伝わらないとも感じていました。
「夫を嫌いになったわけではないんです。でもこのまま一緒にいると、自分が壊れると思いました」
明夫さんは強く反発したといいます。「今さら何を言っているんだ」「少しは我慢できないのか」と声を荒らげる場面もあったそうです。洋子さんはその反応を見て、かえって自分の決断は間違っていないと感じたといいます。
「私の苦しみを、夫は本当に分かっていないんだなと思いました」
その後、長女も交えて話し合いを重ね、明夫さんはしばらく賃貸住宅で一人暮らしをすることになりました。離婚ではなく、まずは別居という選択です。
洋子さんは現在、自宅で一人で暮らしています。寂しさがないわけではありませんが、「ようやく息ができるようになった」と話します。
「朝、誰の気配も気にせずお茶を飲めるだけで、こんなに違うんだと思いました」
一方、明夫さんも別居後しばらくしてから、ようやく自分が妻に依存していた面を認めるようになったそうです。
「家にいれば食事が出てきて、洗濯も掃除もされている。それを当たり前に思っていたんでしょうね」
夫婦別々に暮らすにも、お金の問題はついて回ります。それでも洋子さんは、「多少お金がかかっても、この距離は必要だった」と言います。
「我慢して一緒にいることが正解とは限らないと思います。年を取ってからでも、距離を取ることはできるんですね」
半世紀を共にした夫婦でも、最後まで同じ形で暮らし続けるとは限りません。洋子さんが選んだ別居は、関係を終わらせるためではなく、自分の心を守るための決断でした。
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