資格喪失の恐怖…明暗を分けたのは?
通知の発出後、一般社団法人は廃業し、資格喪失の話が広がりました。Bさんには、不安が二つありました。
一つは、理事就任時の登記簿謄本が出回ることで「社会保険料を安くするために脱法的な行為をしたのではないか」とみなされ、社会的な批判を受けるのではないかという不安です。
もう一つは、より切実でした。Bさんは、社会保険の加入資格そのものが、理事に就任した時点まで遡って否定されるのではないかと恐れたのです。そうなれば社会保険の資格を失うだけでなく、過去に遡って国民健康保険に再加入し、多額の保険料を一括で請求される可能性があります。さらに、これまでに保険証を使って受診した医療費についても全額返還を求められかねません。
通知の発表後に行き詰まる法人の姿を見て、加入を見送っていたAさんは胸をなで下ろしました。保険料が安く見えることと、その制度が正しく適法であるかは別問題だということを、Aさんは早い段階で見抜いていたのです。
【社労士が警告】「実態のない社保加入」が招く結末
結局のところ、本件の本質は明快です。役員という肩書きがあるから社会保険に入れるわけではなく、役員として加入資格を満たすだけの勤務実態があるかどうかが問われているのです。
会費が報酬を上回る、業務内容が曖昧である、加入の目的が単なる保険料の節約であるといった事情が重なれば、行政からは厳しく指導されます。平成15年の裁決例と今回の通知をあわせてみれば、「形式よりも実態」という行政・審査実務の姿勢は一貫しているといえるでしょう。
個人事業主にとって、社会保険の負担の重さは切実な問題です。しかし、「安く見える仕組み」が、将来の資格否認や遡及処理の火種になっていることもあります。
AさんとBさんの明暗をわけたのは、情報の早さでも、度胸の差でもありません。安さの裏にある制度の仕組みを冷静に確認したかどうか、その一点に尽きるのです。
岡 佳伸
社会保険労務士法人 岡佳伸事務所
特定社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士
