取り戻そうとして、さらに失った…夫婦が直面した“老後の現実”
話を聞くうちに、損失の経緯はさらに重くのしかかりました。
恒一さんは当初、著名人の画像が使われた広告をきっかけに投資話へ誘導され、その後はメッセージアプリでやり取りを続けていたといいます。途中で「もっと入金すれば出金できる」「今やめると損が確定する」と言われ、退職金を次々に振り込んでしまったというのです。
警察庁が公表した『令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)』によると、2025年のSNS型投資詐欺の認知件数は9,538件、被害額は1,274.7億円でした。接触手段はバナー広告やダイレクトメッセージが全体の約8割を占め、「必ずもうかる」「元本保証」などの文言を含む広告も確認されています。
「最初の時点で相談してくれていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。でも、本人は“取り返せる”と思い込んでいたんです」
紀子さんはそう言って、深く息をつきました。
現在、2人は警察や金融機関への相談を進めつつ、家計の立て直しを始めています。旅行やリフォームは見送り、支出も一から見直しました。けれど、失ったお金そのものより大きかったのは、「これから先をどう暮らすのか」という不安だったといいます。
「怒りもありました。でもそれ以上に、“この先どうするの”という気持ちの方が大きかったです。夫婦でいる以上、現実を見てやり直すしかありませんでした」
老後資金をめぐる問題は、浪費だけで起きるわけではありません。不安、焦り、見栄、そして“取り戻せるかもしれない”という期待が、家庭のお金を静かに崩していくこともあります。
「退職金があるから安心、なんて思っていました。でも、本当に必要だったのは、お金を増やすことじゃなくて、夫婦でちゃんと見える形にしておくことだったのかもしれません」
その言葉には、失った金額の重さだけでなく、老後の土台が崩れたことへの痛みがにじんでいました。
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