通帳に残る「800万円の引き出し」老後の裏で起きていた異変
埼玉県内に住む会社員の雅彦さん(仮名・53歳)は、母・和子さん(仮名・83歳)の通帳を見た日のことを、今でも忘れられないといいます。
和子さんは数年前に夫を亡くし、その後は一人暮らしを続けてきました。年金収入は月約14万円。持ち家で家賃負担はなく、生活は「質素だが安定している」と雅彦さんは認識していました。
「貯金もそれなりにあるはずだと思っていました。父が亡くなったときに、ある程度は残っていたので」
転機は、母の通院の付き添いでした。病院の支払いの際、通帳を預かることになり、何気なく記帳したといいます。
そのとき、目に飛び込んできた数字に、思わず手が止まりました。
「え…?」
直近の数ヵ月で、まとまった引き出しが何度も行われており、その合計は約800万円に達していたのです。
「一瞬、見間違いかと思いました」
帰宅後、雅彦さんは母に尋ねました。
「この引き出し、どうしたの?」
和子さんは少し間を置いたあと、静かに答えました。
「頼まれたのよ」
和子さんは、数年前から電話で連絡を取っていた“知人”に対して、お金を振り込んでいたのです。最初は数万円程度だったものが、次第に金額が大きくなり、「今だけ必要」「すぐ返す」といった言葉を信じて送金を続けてしまったといいます。
「困っているって言われたら、放っておけなかったのよ」
その表情には、後悔と戸惑いが混じっていました。
こうしたケースは、決して特殊なものではありません。警察庁によれば、特殊詐欺の被害者の多くを高齢者が占めており、近年は電話だけでなく、SNSや個人的なやり取りを通じた金銭被害も増加しています。
雅彦さんは、「まさか自分の母が」と感じたといいます。
「ニュースで見るだけの話だと思っていました」
