「開業の現実」と、家計への影響
中小企業庁『2024年版 中小企業白書』では、2022年度の開業率は3.9%、廃業率は3.3%とされ、事業の継続は決して簡単ではないことが示唆されています。
また、日本政策金融公庫の『2024年度新規開業実態調査』では、開業者の多くが勤務経験を持ち、一定の実務経験を背景に起業する傾向が示されています。とはいえ、“経験がある=生活設計まで万全”とは限りません。
恵子さんにとっては、夫の店は「夢」ではなく、「家計を侵食するリスク」になりつつありました。
決定的だったのは、開業から半年が経った夜でした。帳簿を見ると、今月も赤字。恵子さんは静かに言いました。
「このままだと、老後が持たない。店、たたむことも考えよう」
夫は、テーブルを叩きました。
「今さら何言ってんだよ! 俺の人生だろ!」
「私の人生でもあるでしょ。退職金は“あなたのお小遣い”じゃない」
「じゃあ出ていけよ。足を引っ張るな」
その瞬間、恵子さんの中で何かが切れました。
「……分かった。出ていく。これ以上、あなたの夢のために私が壊れるのは無理」
恵子さんは荷物をまとめ、子どものいる東京に戻りました。弁護士に相談し、財産分与の話し合いへ。
「店の設備は俺のものだ。残りの金も俺が稼いだ退職金だ」
夫はそう主張しましたが、婚姻期間中に形成された財産は、原則として夫婦の共有財産として財産分与の対象になり得ます。事業に投じたお金も“夫婦の老後資金”である以上、争点は複雑になりました。
加えて、離婚時には一定の条件で厚生年金の記録を分ける「年金分割」という制度もあります。お金の問題は、感情より後から追いかけてきます。
半年後、恵子さんは離婚届にサインしました。
「私、夫の夢を応援できない自分が冷たいのかと思っていました。でも違った。“夢の中に私の席がなかった”だけだったんです」
熟年離婚の引き金は、浮気や暴力だけではありません。「退職金の使い道」「老後の働き方」「生活の主導権」――小さなズレが、“取り返しのつかない決断”につながることがあります。
そして今回問題だったのは、「今いくら使っているのか」「本当に続けられるのか」を夫婦で話し合い、ブレーキをかけられる状態にあったかどうかだったのかもしれません。
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