亡き父に重ねた自分の老後
Bさんの決断の背景にあったのは、定年が遅すぎるという“強い違和感”でした。
「私の父なんかは、55歳で定年して家にいましたよ。それが普通の時代もあったんです」
高度経済成長期から1980年代頃にかけて、日本では大企業や公務員を中心に、55歳定年が一般的でした。当時も、定年後に嘱託や再雇用という形で働き続ける人はいましたが、今のように制度として保障されたものではなく、あくまで会社の裁量に委ねられていました。それでも多くの人にとって、55歳が「一区切り」であったことに変わりはありません。
「60歳ならまだしも、今や65歳が当たり前。いくら長生きになったからと言われてもね……。うちの父は70歳になる前に亡くなりました。もし65歳まで働いていたら、自由な時間は5年もなかったことになる。何十年も身を粉にして働いて、それだけ。自分に置き換えたら、あまりにも酷だと思ったんです」
Bさんには、海外旅行に行ったり、お金のかかる趣味を楽しみたいという欲はないといいます。叶えたいと思っていたのは、庭の手入れをしたり、縁側でゆったり本を読んだり。どれもささやかですが、仕事に追われる日々の中では叶えにくいことばかりでした。
「明確な目標があって早く会社を辞める人もいるでしょう。私にはそんな夢はなくて、ただ、ストレスのない時間が欲しかった。『何もしない時間』を含めて、余生を自分のものとして使いたかったんです」
