経済的な理由が別居を拒む
現在、樫山家ではお互いに顔を合わせれば目をそらし、会話は最低限の事務連絡のみ。「別々に暮らしたい」という思いは共通していますが、現実はそれを許しません。
娘夫婦には家を別に借りる余力はなく、敏男さんもまた、残された1,000万円の貯蓄を切り崩す勇気は持てませんでした。今後の介護費用やインフレを考えれば、この現金は自分たちが生き抜くための最後の防波堤です。
お互いに苦しみながらも、経済的な理由で一つ屋根の下に居続けなければならない。
「娘を支え、自分たちの老後も安泰だと思っていた。でも実際は、家族の絆を失っただけ。こんなことなら、自分たちだけの平屋で静かに暮らしていればよかった……」
敏男さんが期待した「家族の絆」や「将来の安心」は、本来であれば統計上、高い確率で実現可能なものでした。
旭化成ホームズのLONGLIFE総合研究所が公表した「二世帯同居調査」によれば、長期同居経験者の約9割が二世帯同居に「満足」と回答しています。その理由の多くは、経済・育児面での実利に加え、「親孝行ができている」といった情緒的な価値にあります。
ただし、この満足度は「互いへの思いやり」や「距離感への配慮」があってこそ維持できるものです。敏男さんのケースでは、資金援助という親心が子世代の甘えを誘い、逆に親側には見返りへの期待を生んだとも考えられます。
こうした心のすれ違いが、本来大切にすべき礼儀や配慮を欠かせ、家族関係を壊す要因となった可能性は否定できません。
[参考資料]
旭化成ホームズ「二世帯住宅発売から50年 築20年以上 二世帯同居調査(2025年12月5日発表)」
