地面師被害、「運が悪いから遭う」わけではない…地面師が目をつける不動産の共通点と、地面師が糸を引く取引の特徴【司法書士が解説】

地面師被害、「運が悪いから遭う」わけではない…地面師が目をつける不動産の共通点と、地面師が糸を引く取引の特徴【司法書士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、マスコミ等による事件報道を通じて一般の人にも広く知られるようになった「地面師(なりすましによる不動産詐欺)」という詐欺行為。対象が不動産であることから金額が大きくなりやすく、被害者のダメージは甚大です。本稿では、地面師に狙われやすい不動産の共通点と、地面師が持ち掛ける取引の特徴、被害を回避する具体的な対策について、司法書士の加陽麻里布氏が解説します。

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地面師被害に遭うのは「不用意だから」ではない

地面師とは、他人の不動産の所有者になりすまして、売買代金や融資金をだまし取る詐欺の一種です。近年放映されたドラマや、現実に起きた大きな事件の報道をきっかけに、一般の人にも知られるようになりました。

 

注意が必要なのは「地面師詐欺は不用意だから遭うわけではない」という点です。一見すると取引の形式も整い、書類もそれらしく揃っているけれども、決済をせかされて心理的に判断が鈍る、そんな状況で起こります。

 

やり取りについて「なんとなく違和感はあるが、決定打はない」状態で手続が進み、契約をしてしまう。これが地面師詐欺の最も危険な局面です。

 

結論を先に言うと、地面師に狙われた取引を絶対に防ぐことは困難です。だからこそ、狙われにくくする、疑わしい取引を中断できる状態を作ることが重要なのです。

地面師が目をつける「不動産」の特徴、糸を引く「取引」の特徴

地面師に狙われるのは、偶然でも、運が悪かったからでもありません。地面師は「成功確率が高い条件」が揃った案件に目をつけます。地面師に狙われやすい不動産と、持ち掛けられたときに買主が注意すべき取引の特徴をまとめます。

 

【不動産の特徴】

 

●長年名義が動いていない

●相続登記が未了のまま

●所有者が高齢で、管理の手が薄いように見える

●物件が高額/面積が大きい

●担保(抵当権等)が付いていない

●空き地・空き家のように見え、所有者の生活実態を感じにくい

●所有者が物件近くに居住していない(買主が所有者に会いにくい)

 

【取引の特徴】

 

●相場より不自然に安い(買主側が冷静さを失いやすい)

●現金取引を求める、または決済を急かす

●売主本人が前面に出ず、代理人が主導する

●権利証や本人確認書類の提示が直前まで遅い/コピーしか出ない

●不自然な事情説明が繰り返され、確認を嫌がる

 

このような条件が複数重なると、地面師案件である可能性が上がります。共通しているのは、「不動産の管理が手薄である」こと、そして取引においては「所有者の本人性の確認が難しい」という特徴があります。

 

地面師が目指すのは、それらしい書類をそろえることではなく、いかにして人の注意や疑念を振り切るか、という点なのです。

「権利証がない取引」に潜むリスク

不動産の名義変更では、通常、権利証(登記済証・登記識別情報)、実印、印鑑証明書等が確認されます。これらは、「所有者本人の意思で手続が行われている」と判断する重要な材料です。

 

一方で、実務上、権利証を提示できないケース(紛失など)もあります。その場合に利用され得る手段として、専門職による本人確認情報の提供や、公証人の認証、法務局の事前通知手続などがあります。

 

ここで注意したいのは「権利証がない=違法ではない」一方で、なりすまし側にとってもここが突破口になり得るという点です。

 

つまり、権利証がない取引は、正当な事情でも起こり得ますが、同時に、本人性の確認が一段難しくなる局面でもあります。だからこそ、当事者は「通常より慎重な設計」に切り替える必要があります。

「防ぎきれない」ことを前提として、対策を立てる

地面師対策は、万能の一手がある分野ではありません。現実的な方針は次の2つです。

 

●狙われにくい状態を作る(入口で避ける)

●疑わしい取引を中断できる仕組みを持つ(途中で止める)

 

以下、所有者側/売買当事者側に分けて示します。

 

●所有者側の対策(狙われにくい状態を作る)

①相続登記を放置しない

相続登記未了は、本人性確認の難しさと管理の薄さを同時に示してしまいます。名義を整えることは、対外的に「責任者が明確な不動産」に戻す意味があります。

 

②空き地・空き家の“管理のサイン”を消さない

地面師は、所有者が現地に関与していない物件を好みます。定期的な点検、最低限の手入れ、近隣との接点など、管理の痕跡は抑止になります。

 

③重要情報を安易に渡さない

権利証・実印・印鑑証明書等は、取り扱いを誤ると被害につながり得ます。「先に渡して」と言われたときに、渡してよい理由と代替策が説明できない相手は、警戒すべきです。

 

●買主側・取引当事者側の対策(疑わしい取引を中断できる仕組みを持つ)

①「急がせる取引」は、必ず疑う

決済を急かす取引は、本人確認・書類確認・現地確認の時間を奪います。「期限がある」「今週中に」などの言葉が出たら、確認項目を増やす合図です。

 

②司法書士は自分で選ぶ

不動産売買の実務では、所有権移転の司法書士報酬を負担するのは買主側であるケースが一般的です。そのため、多くの場合、司法書士の選定権限も買主側にあります(取引の形態により例外はあります)。実際の取引では、不動産会社が「いつもの司法書士」を紹介することも少なくありませんが、それに必ず従わなければならないわけではありません。当事者が自衛するなら「誰が確認するか」を自分で確保することが重要です。司法書士は、登記申請の技術者であると同時に、決済局面の本人性確認の最終関門でもあります。

 

③書類の提出タイミングが遅い場合は、条件を出す

権利証や本人確認書類の提示が直前まで出ない、コピーしか出ない、説明が曖昧といった場合、買主側は「確認できないなら決済しない」という強い姿勢で臨むべきです。「よい条件の取引を逃したくない」という気持ちに呑まれないことです。

決済前に確認したい「危険なサイン」のチェックリスト

取引において、次の項目に該当するものが多くなるほど慎重な判断が必要です。

 

□ 売主本人が一度も前面に出ない/会えない

□ 相場から見て不自然に安い

□ 現金取引を強く求める

□ 決済時期を不自然に急かす

□ 権利証・印鑑証明・本人確認書類が直前まで出ない

□ 説明に「もっともらしい事情」が多く、確認を嫌がる

□ 物件が長年名義変更されていない/相続登記未了

□ 空き地・空き家で、所有者の関与が見えにくい

□ 担保が一切付いておらず、手続が不自然に早い

 

このチェックリストは「詐欺の断定」に使うものではありません。「確認を厚くするサイン」として使ってください。

安全な取引とは、「冷静に立ち止まることができる」取引

地面師詐欺は、書類の出来栄えや話術だけでなく、当事者の心理を突いてきます。「ここで止めたら機会損失だ」「疑ったら失礼では」という感情が最も危険です。

 

だからこそ取引で本当に重要なのは「違和感があるときに、迷わず立ち止まることができるか」ということです。

 

確認を嫌がる相手に対し、「中断する」という選択肢を持ち、臨むことができるのか。ここに尽きるといえるでしょう。

 

不動産取引は高額で、失敗のやり直しが効きにくい分野です。不安があるときは、手続の前に立ち止まり、専門家に相談して確認の設計を組み直す。これが、最も現実的な地面師対策です。

 

 

加陽 麻里布

司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

 

 

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