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起業に関心を持っている人なら「会社は資本金1円から設立できる」という話を聞いたことがあるでしょう。では本当に1円起業はできるのでしょうか? 『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』の著者、司法書士の加陽麻里布氏が解説します。

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本当に「1円玉ひとつだけ」で会社を設立できる?

「会社は資本金1円から設立できる」という話を耳にしたことがある人も多いと思いますが、そもそも「1円起業」という言葉が流行った背景には、起業件数の増加があります。

 

近年の日本では、自社の従業員に副業を解禁する会社が増えたことで、サラリーマンが起業しやすい環境となりました。それに呼応するように新設法人の数が増加し、過去最高数を更新し続けています。

 

しかしその一方で、起業に興味はあっても、資金面に不安を持つ人は少なくありません。そんな人たちが「資本金1円で起業できる」との言葉に注目しているのです。

 

では、本当に「1円玉」だけで会社を設立できるのでしょうか? 法律上は可能ではあるものの、残念ながら、実際にはムリだといわざるを得ません。

1円起業が「実質ムリ」なワケ

「1円起業」とは、その名の通り資本金1円で設立された会社を指します。かつては株式会社の設立には最低1,000万円の資本金が必要でしたが、2006年の会社法改正で、最低資本金制度が廃止されました。そのため、法律上は「資本金1円でも会社を設立可能」となっています。

 

しかし、資本金1円での起業には多くの課題があります。

 

そもそも資本金の役割とは、会社の設立後すぐに使える運転資金であると同時に、取引先や金融機関への信用力を示すものです。そのため、資本金が1円では、取引先や銀行から「この会社本当に大丈夫なのだろうか?」と不安を持たれるリスクが高まります。

 

こういった事態を避けるためにも、資本金の額は戦略的に設定する必要があります。

業種別に見る「資本金の目安」とは?

資本金は会社の運転資金であることを考慮し、それと同時に、取引先や銀行に与える心象を考慮したうえで金額を検討していくべきだといえます。

 

具体的には、「人件費」「商品材料の仕入れ費用」「オフィス・店舗の賃料や保証金」「設備や備品などの購入費用」といった、事業を行ううえで必要となる費用を算出し、設立直後の運転資金でこれらを賄えるのかを考えなければなりません。

 

以下は、サラリーマン起業家に多く選ばれている業種で会社を設立する場合に、妥当だとされている資本金額です。

 

◆コンサルティング業:100万円程度

コンサルティング事業の会社を起業する場合、資本金は100万円程度でスタートするケースが多くなっています。コンサルティング事業は設備投資がほぼ不要のため、少額でのスタートが可能です。

 

◆ITスタートアップ:500万円以上

ITスタートアップの場合は、成長を見越し、500万円以上の資金を確保したうえで起業するのが一般的です。

 

◆飲食業:300万〜500万円程度

飲食店の場合、初期投資や設備投資が必須のため、規模にもよりますが、資本金は大体300万円から500万円が望ましいといわれています。

 

◆不動産事業:1,000万円以上

不動産事業は、なにより信用力が重要になります。そのため、資本金は1,000万円以上で設定するということが多くなっています。

 

このように、起業する業種によって用意したほうがよい資本金の設定額は異なるのです。

会社設立で「必ず必要となる手続き」とその費用

先述したように、資本金を1円に設定して会社を作ることは法律上可能ですが、会社を設立するための設立費用は、1円ではすみません。会社設立で必ず必要となる手続きについて、いくら費用がかかるのかをまとめました。

 

◆登録免許税

登録免許税は会社設立時にかかる税金です。基本的に、登録免許税は資本金の0.7%で、株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円です。

 

◆定款認証費用

会社設立時に作成する定款を公証役場で認証を受ける「定款認証」ですが、これに支払う費用が「定款認証費用」です。金額は資本金によって異なりますが、株式会社の場合、約1万5,000円から5万円程度となっています。

 

◆印鑑作成費用

法人印も事業運営に必須ですが、これを作成するにも数千円から1万円程度が必要です。

スタートから「赤字」ではモチベーションも上がらない

本記事からもわかるように、実際には「1円で会社を設立する」ことはできません。最低資本金制度が廃止され、法的には資本金1円で会社を作れても、実際に事業を始めるにはさまざまな費用が必要です。資本金1円では、設立登記に必要な費用すら賄えません。

 

仮に資本金1円で事業をスタートしたら、設立後すぐに資金不足に陥ってしまいます。実務的には、設立者が会社に貸し付ける形で資金を補うケースが多く見られます。設立者からの借り入れによってお金を準備することになるわけですが、そうなれば「起業と同時に借金を背負った会社」としてスタートを切らざるを得ません。

 

それでは取引先や金融機関の信用は得られないでしょう。なにより、スタートから赤字では、会社運営のモチベーションが上がらないのではないでしょうか。

 

このように、1円起業は「理論上は可能でも、現実的とはいえない」ものなのです。

 

 

加陽 麻里布

司法書士法人永田町事務所 代表司法書士

 

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