「ありがとうなんて、一度も言われたことがない」
東京都内で暮らす石井尚子さん(仮名・46歳)は、要介護2の母親・澄江さん(仮名・80歳)と同居しています。数年前に母が転倒して大腿骨を骨折してから、日常生活のほとんどに介助が必要となり、仕事もパート勤務に切り替えました。
「お風呂もトイレも私が手伝わないと無理で。朝から晩まで呼ばれています。何かしても、『当たり前でしょ』って態度で…ありがとう、なんて一度も言われたことがありません」
それでも、親だから見捨てることはできない。誰にも頼れず、心をすり減らしながらの介護生活が続いていました。
ある晩、訪問介護の担当者が帰った直後のこと。ベッドの上で不機嫌そうな母から、突然こんな言葉をぶつけられたといいます。
「もう来ないでほしい。あの人、嫌い」
尚子さんが「そんなこと言ったら、来週から来てもらえなくなるよ?」とたしなめると、母は不満げにこう返しました。
「だったら、あんたがもっとちゃんとやればいいだけじゃない」
その瞬間、尚子さんはキッチンに立ったまま、声を出さずに泣きました。
「私は、母のためにって思って続けていることって、なんなんだろうって」
母の収入は月17万円の年金のみ。要介護2の認定を受けており、介護保険サービスを利用しているものの、通院やリハビリなどの費用は尚子さんのパート収入からも補っています。
介護保険制度では、要介護2の場合、訪問介護や通所リハビリ(デイケア)などを月額で限度額(要介護2の場合は19万7,050円)まで1〜3割の自己負担で利用できます。とはいえ、限度を超えた分は全額自己負担となるため、在宅介護の継続は経済的にも厳しくなりがちです。
