プロ経営者が失敗してしまう3つの理由
日系企業において、社長や取締役、さらにはCXOクラスまで含めた外部招聘は、この10数年で急速に広がりました。実績や知名度を買われ、外部から経営の中枢に迎えられる、いわゆる「プロ経営者」が増えています。
当然ながら、外部から来て高い成果を上げ、組織に定着しているプロ経営者は数多く存在します。一方で、期待を背負って着任したにもかかわらず、短期間で去っていくケースも見受けられます。
プロ経営者の躓きとしては、たとえば次のようなケースもありました。
コロナ禍以降の業績低迷をめぐって市場から厳しい評価を受けただけでなく、強権的とも受け取られかねないコミュニケーション手法に対する反発が社内から噴出した経営者。また、不適切と疑われる製品をめぐる問題をきっかけに、グループトップの座や経済団体での要職を退く事態となった経営者。さらに、公の場での不適切な発言を理由に職を解かれた経営者も。いずれも、実際に大手企業の経営者の身に起きた出来事です。
では、こうしたプロ経営者に降りかかる事案は、果たして「遠い世界の話」なのでしょうか? 決してそうではありません。一部の有名経営者だけに起きた特殊な話ではなく、エグゼクティブとして転職を考えている皆さんにとっても他人事ではないのです。
なぜ、実績も経歴もある人がつまづいてしまうのか。これまで2万人以上の経営者・幹部・管理職のキャリアを見てきた視点から、その理由を3つに分けて見ていきます。
1.事業・商品へのリスペクトがない
まずは、自社の事業や、商品・サービスに対するリスペクトが欠けており、その会社の本質的な価値や強みを引き出す経営ができなかったというケースです。
ある外食チェーン企業で、マーケティング理論に精通した“プロ経営者”が、若年女性層の獲得を狙った戦略を打ち出した事例があります。地方から都会に出てきた若い女性をターゲットにし、女性が男性から高い食事をおごってもらうようになる前に、その飲食店のメニューに依存させ、リピート客になってもらう―ーそういったシナリオでした。
しかし、この戦略は、その企業が長年提供してきた商品やブランドの価値と噛み合っていたとは言えませんでした。結果として、この経営者は解任。理論的には整理された戦略であっても、企業の強みへの理解が浅いまま進められたことで、組織やブランドに混乱を招いた例として語られています。
経営の要諦は、その企業・事業(商品・サービス)が持つ根源的価値を見極めて、それを徹底的に磨き込むこと。そもそもこの出発点がずれている人、あるいはその見定め・見極めに興味関心のない人が要職につくことは、企業にとっても本人にとっても不幸な結果を招くでしょう。
2.着任時から「次のキャリア」しか見ていない
転職に際し、「この会社で果たす役割をライフワークにしたい」と覚悟を決めて臨む人がいる一方で、着任した瞬間から次のポスト、次の転職を意識している人もいます。在任中から次のキャリアを口にしたり、転職渡り歩き術に関する自著を出したりするケースも見られます。
私は転職支援の際、「終身雇用マインドで転職しましょう」とお話しします。それは、雇用にしがみつけという意味ではありません。少なくとも着任時点では、その会社のミッションやビジョンに本気で向き合う覚悟が必要だということです。
着任時点から、次の自分のキャリアばかり考えているトップや幹部に、社員たちの心はついていくでしょうか。愛社精神の強い社員たちが多くいる会社であれば、そのような脇見ばかりしている経営陣や上司に対して憤りを感じるでしょう。
従業員は驚くほど敏感に、経営者の視線の向き先を見抜いています。
3.プロパー社員を軽視する「マウント型エグゼクティブ」
転職で入社したプロ経営者やエグゼクティブには、これまで自社を支えてきた従業員たち(=プロパー社員)への愛情を持って接する人と、そうでない人がいます。
これまで会社を支えてきたプロパー社員を尊重し、ともに戦おうとするか。それとも、彼らを軽んじ、自分の子飼いを外部から集めるか。この違いは、組織の命運を分けます。実際、プロ経営者やエグゼクティブの外部招聘を始めた企業で、続々と幹部クラスの人材が外部に流出する事象を何度も見てきました。
叩き上げのプロパー人材で主要なポストが占有されていて組織活力や柔軟性に欠けていた企業が、プロ経営者の着任で、よい意味で人材の代謝が活発になるというケースはもちろん多くあります。ただ、一方で、それまで愛社精神をもってその会社を支えてきてくれた中核人材が、せきを切ったように外部に飛び出し始めるということもあります。
後者のケースでは、着任したプロ経営者やエグゼクティブが外部人材を次から次へと招き入れ、それまで支えていた幹部をどんどん外してしまう。そうした結果の人材流出です。
実際に私も、プロパーの人事部長を前にして「うちは本当に、内部に使える幹部が全然いないんでね」と話すプロ経営者に会った経験があります。こうしたトップや幹部が、従業員たちの総力を結集して、事業を成長させたり変革したりすることは難しいのではないでしょうか。
「俺のほうが上だ」「俺が教えてやる」というようなマウント型のエグゼクティブは、人間関係部分でつまずき、成果を上げることなくその会社を去る可能性が高くなるでしょう。
