母の暮らしを10年支えてきた長男
「仕送りをやめるつもりなんて、最初からなかったんです」
そう語るのは、都内在住の高井信一さん(仮名・60歳)です。20代で上京して以来、実家のある東北には年に一度帰省する程度の関係が続いていました。
「父が亡くなったのが10年前です。母がひとり暮らしになって、『年金だけじゃ生活が厳しい』と聞いて、月に5万円だけ送るようになりました」
母・澄江さん(仮名・84歳)の年金収入は月7万円ほど。持ち家ではあるものの築年数は古く、冬場は暖房費がかさみます。公共交通機関も限られており、通院や買い物は簡単ではありません。
「母の生活は、仕送りがある前提で成り立っていました。僕も、できる範囲で支え続けてきたつもりです」
信一さんが仕送りを見直さざるを得なくなったのは、勤務先の早期退職制度に応募したことがきっかけでした。
「再就職すれば、またすぐ送れると思っていました。でも、60歳を超えてからの就職活動は想像以上に厳しかった」
再就職先はすぐには見つからず、当面の生活費をやりくりするだけで精一杯。年金受給までは数年あり、退職金も住宅ローンの残債や子どもの教育費で大半が消えていました。
「このままでは、自分の生活が立ち行かなくなると思いました」
迷った末、信一さんは母に電話で現状を伝えました。
「『来月から、これまでの仕送りを続けるのが難しい』と正直に話しました。責任を投げ出すつもりはなかったので、ただ現実を伝えたかったんです」
電話の向こうで、母はしばらく黙り込みました。
「じゃあ、どうすればいいの…」
絞り出すように返ってきたのが、その一言でした。
澄江さんの家計は、信一さんの仕送りを含めて月12万円ほどで回っていました。そこから、国民健康保険料(年額で約10万円)、介護保険料、冬場の灯油代(地域によっては月1万円を超えることもあります)を支払うと、手元に残るお金は限られます。
「貯金はあります。でも多いわけではないし、いつまで持つか分かりません。働こうとも考えましたが、84歳では現実的ではありません」
買い物は週に一度、移動販売車を利用するのが精いっぱい。通院も、バスの本数が少ないため、知人に頼らざるを得ない状況でした。
