「父には“隠し事”なんてないと思っていた」
「父のことは、仕事一筋の真面目な人だと思っていました。持ち家もあるし、年金も企業年金込みで月28万円あったし…正直、あまり心配はしていませんでした」
そう語るのは、東京都内に暮らす会社員・村上智彦さん(仮名・46歳)。父・一郎さん(仮名)は大手メーカーの元役員として定年まで勤め上げ、78歳で自宅にて静かに息を引き取りました。
葬儀や四十九日を終え、兄弟2人で始めた相続関連の手続き。その中で、ひとつ気がかりだったのが「銀行の貸金庫」でした。
「生前に聞いたことがあったんです。“昔からの習慣で貸金庫を借りている”って。でも、父は財産のことを細かく話すタイプではなかったので、何が入っているかはまったく知らされていませんでした」
その日、智彦さんと兄は都内の銀行支店に出向き、死亡届と戸籍謄本を提出したうえで、貸金庫を開けることに。厳重な手続きを経て扉が開いた瞬間、2人は思わず顔を見合わせました。
「金庫の中には、分厚い白封筒がいくつもありました。現金か何かかと思って開けたら…そこには、何十枚もの“手紙”が入っていたんです」
差出人はすべて、見覚えのない女性の名前。
しかも、そのほとんどが20年以上前の日付で、「お元気ですか」「あの日のこと、今でも思い出します」といった私的な文面がつづられていたといいます。
「衝撃でしたね。父には“そんな一面”があったのかと。もちろん、交際していたかどうかなんて今さら分かりません。でも、少なくとも母には…伝えられないと思いました」
一郎さんの妻、つまり智彦さんの母は、現在老人ホームで暮らしています。認知機能にも少し不安があり、今回の件を伝えて混乱させたくないという思いが兄弟の間で一致しました。
手紙の他には、古い株券や郵便貯金の証書の束なども見つかり、相続手続きは予想以上に煩雑なものになりました。
「相続放棄するほどではないけど、心がざわつくっていうんですかね。手続きが大変だったことなんかより、父の“知らなかった側面”がショックでした」
