BPOが狙う「頭脳拠点」への進化
最新の「政府AI準備指数2025」において、フィリピンは世界49位へと躍進を遂げました。この順位向上は、政府による積極的な政策立案とガバナンスの強化が国際的に評価された結果です。しかし、この華々しい数字の裏側では、フィリピン経済の屋台骨であるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業の構造変革、インドやASEAN諸国との熾烈な覇権争い、そしてその成否を握る「電力コスト」という巨大な壁が立ちはだかっています。
フィリピンのGDPの約1割を支えるBPO産業は今、単なる低コストな労働力の提供から、グローバル企業の「戦略的拠点」への脱皮を急いでいます。かつては、IT大国インドがテクニカルサポートや高度なIT開発を独占し、フィリピンは英語力を武器にしたコールセンター等の音声業務で住み分けを図ってきました。
しかし、AIの台頭により単純な音声業務が自動化されるなか、フィリピンはインドが得意としてきたKPO(ナレッジ・プロセス・アウトソーシング)の領域へと進出を始めています。
現在、マニラやセブには、金融分析、法的調査、さらには多国籍企業の「地域本社(RHQ)」や「グローバル・キャパビリティ・センター(GCC)」の設置が相次いでいます。これは、単に外注を受けるのではなく、企業の意思決定や高度なオペレーションを担う「頭脳」としての機能です。AIを脅威と見なすのではなく、生産性を高める「副操縦士」として活用し、人間特有の共感力や高度な判断を組み合わせたハイブリッドなサービスへと進化させています。
一方で、こうした高度なデジタルサービスを支える「データセンター」の誘致競争においては、ASEAN内での厳しい現実が待ち受けています。現在、シンガポールの供給逼迫を受け、隣国マレーシアが安価な電力を武器に「ASEANのデジタル首都」の座を狙っています。対するフィリピンにとっての最大の懸念材料は、アジア最高水準の電力価格と供給の不安定さです。この弱点を克服するため、マルコス政権はこれまでにない抜本的な構造改革に乗り出しています。
「アジア一高い電気代」克服へ
その象徴的な動きが、フィリピンのソブリンウェルスファンド「マハリカ投資基金(MIF)」による、送電大手フィリピン国家送電網(NGCP)への戦略的出資です。送電網という国家のエネルギー動脈に公的資金を投入し、近代化を加速させることで、送電ロスの削減と料金の引き下げを直接的に狙っています。
さらに政府は、再生可能エネルギー分野を中心とした発電セクターの外資規制を事実上撤廃し、100%の外資保有を認めました。これにより、外国直接投資(FDI)を促進して市場に競争原理を導入し、石炭依存からの脱却と電力供給量の底上げを急速に進めています。
フィリピンが「AI時代の勝者」となれるか、今まさに正念場を迎えています。政策レベルでの高い評価を、いかにして安価な電力インフラと、高度なサービスを担う人材へと還元できるかが、国家の命運を分けるでしょう。インフラの脆弱性を克服し、インドに匹敵する付加価値を生み出した先にこそ、真のAI先進国としての未来が開けています。
フィリピンは「安価な労働力」という旧来のイメージを脱却し、地域本社機能や高度な知的サービスへと軸足を移すことで、インドやマレーシアといった競合国に対抗しようとしています。マハリカ基金の活用や発電分野の外資開放といった大胆なインフラ改革は、デジタル経済の基盤を固めるための必須の一手といえるでしょう。
この官民一体の構造改革こそが、2026年にASEAN議長国となるフィリピンが、この地域におけるAI活用のリーダーへと進化するための鍵となるはずです。
