「これからはふたりで、のんびり温泉でも…」
「人生、これからが本番だと思っていたんです。60歳で定年を迎えて、退職金も2,300万円入った。年金の受給はもう少し先ですが、それまでの生活費も計算済みでした。月収64万円をいただいていた現役時代の生活をコンパクトにして、妻とゆっくり過ごすつもりでした」
そう語るのは、神奈川県在住の元会社員・佐藤宏一さん(仮名・60歳)。約30年にわたり大手製造業で勤め上げ、部長職まで上り詰めた人物です。
退職後、すぐに計画していたのが“夫婦水入らずの温泉旅行”。30代のころ、子どもが生まれる前に訪れた長野の温泉地を再訪することにしました。
「妻も『懐かしいね』と笑っていて、『これからまたふたりで旅できるなんて嬉しい』と言ってくれたんです。その夜までは、本当に…」
翌朝、宿で朝食を終えた直後のこと。妻の態度が急に冷たくなり、言葉少なに部屋を出ていきました。
「何か怒らせたのかと尋ねても、『別に』としか言わない。あんな空気は結婚以来初めてで、正直焦りました」
旅行から帰宅しても、その違和感は残り続けました。そして、旅行から数日後――。
「ポストに見覚えのある銀行の封筒が届いていて。中には、口座の解約申込書と“財産分与に関する同意書”が入っていたんです。差出人は、妻の旧姓になっていました」
頭が真っ白になった佐藤さん。後日、妻から「別れたい」と告げられます。
「理由は、私が“変わらなかったこと”だそうです。会社を辞めても、相変わらず命令口調で、感謝の言葉もない、と」
近年、定年後に離婚を選ぶ夫婦が増加傾向にあります。厚生労働省『人口動態統計』によれば、2024年における熟年夫婦(婚姻期間20年以上)の離婚件数は約4万件。これは全離婚件数の20%以上を占めています。
