「老後は悠々自適」だったはずが…
「まさか、自分がこんな寂しい晩年を迎えるとは思いもしませんでした」
そう語るのは、東京都内に暮らす大手企業の元幹部職員・高橋誠一さん(82歳・仮名)。現役時代は海外出張も多く、組織の要として長く活躍。定年退職時には退職金2,500万円、持ち家も完済済みで、年金も企業年金を含めて月額20万円超。老後資金として確保していた金融資産は、運用も含めて約8,000万円にのぼります。
「子育ての時期は仕事優先でしたが、定年後は家族サービスに注力するつもりだったんです。娘にも息子にも『孫ができたら任せろ』なんて言っていたのに…」
ところが、現実は想定と大きく異なりました。
「正直、何が悪かったのか、今でも分かりません。娘からも息子からも連絡は一切ありません。孫の写真すら見たことがない」
数年前、高橋さんは息子夫婦の引越しを手伝い、新居購入の頭金として300万円を援助しました。娘の結婚式費用にも同様の金額を支援し、本人は「親として当然のことをした」と思っていたといいます。
「私なりに精一杯やったつもりだったのですが、『支配的だ』『口出しが多い』と言われるようになり…疎遠になっていきました」
それでも、「時間が解決する」と信じて待ち続けました。年賀状は返信がなくても出し続け、誕生日にはプレゼントも送っていました。しかしある日、娘から届いた一通の手紙に、こう書かれていたのです。
「お父さんの価値観を押しつけられるのがつらい。私たち家族のことには関わらないでください」
高橋さんのように、表面的には「十分な資産がある裕福な高齢者」でも、孤独に苦しみ、精神的な不安を抱えるケースは少なくありません。
また、「孤独死」に対する懸念も広がっています。高橋さんも現在は見守りサービスを契約し、週1回の訪問ヘルパーに生活状況を確認してもらうなど、最低限のセーフティネットは維持していますが、「人と話すのは、週にその1回だけ」という状況です。
