(写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍やエネルギー危機といったショックから、緩やかな回復傾向が続くユーロ圏経済。今年に入り、米トランプ大統領による関税政策に翻弄されながらも、経済への悪影響はあくまで限定的なものにとどまっています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏と高山武士氏が、ユーロ圏経済の現状分析から、底堅い成長の背景と今後の見通しを詳しく解説します。

2.経済・金融環境の見通し

見通し:緩やかな成長の継続を予想

今後については、所得環境の改善を受けた消費の回復が進み、防衛・インフラ関連の財政支出が成長を支えるだろう。一方で、輸出環境の改善の遅さや民間投資の低迷が成長の重しになるだろう。

 

トランプ関税に関しては、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税などが連邦最高裁で係争中であり、不確実性の要因となっているが、見通しの前提では、基本的に現在、課されている関税率が続くと想定している(例外として、見通しでは新たに半導体、医薬品に関して15%程度の関税が課されると想定)。

 

上記の前提のもと、先行きの消費は底堅い雇用環境を背景に改善が続くと予想する。ただし、消費者景況感は冴えない状況が続いており、貯蓄率も高い状況が続いている[図表22・23]。今後、トランプ関税などの不確実性後退や経済回復の持続に伴い、消費者景況感の改善や貯蓄率低下を見込むものの、当面は消費の力強い伸びにも期待できない状況が続くと予想する。

 

[図表22]ユーロ圏の可処分所得と消費(実質)

 

[図表23]ユーロ圏の消費者信頼感調査

 

投資は、復興基金や防衛・インフラ投資を中心に公的投資が押し上げ要因となる状況が続くと見込まれる。特に26年はドイツにおけるインフラ投資の本格化が期待される。なお、26年末には復興基金は終了するが、他の未利用基金の活用等によって急激な財政の崖の発生は回避できると見込んでいる。民間投資は、中立金利付近まで引き下げられた政策金利が追い風となるが、長期金利への上昇圧力が根強いこと、競争力の低下を背景とした輸出の伸び悩みや不確実性の高さがドイツを中心に投資拡大の障害となっている[図表24]。今後も当面は逆風が強くなるだろう。特に製造業では、欧州委員会の調査における26年の設備投資意向が、コロナ禍を除き最低水準であった今年並みにとどまる[図表25]。南欧経済やサービス業は堅調なため、これらの地域や分野での投資が下支え要因になると見られるが、全体としては力強さに欠ける状況が続くと予想する。

 

[図表24]ユーロ圏の投資伸び率(前年比、経済主体別寄与)

 

[図表25]設備投資意向(欧州委員会サーベイ)

 

域外経済は、総じて弱い状況が続くと見ている。米国向けの輸出は駆け込み需要が剥落し、来年にかけてトランプ関税の負の影響が強くなると予想する。主要輸出先である中国向けも、中国国内の内需が弱く、過剰生産が問題視されるなか、ユーロ圏からの輸出拡大は見込みにくい。ユーロ高の環境も逆風となるだろう。27年にかけて域外環境は改善に向かうと見ているが、そのペースは緩慢なものになるだろう。

 

上記を踏まえて、暦年でみた欧州経済の成長率は25年1.4%、26年0.9%、27年1.2%と予想する[図表26]。

 

[図表26]ユーロ圏の経済見通し

 

インフレ率は、今後も25年2.1%、26年1.9%、27年1.9%と目標前後で安定推移16、ECBは目標に沿ったインフレ率が続き、経済も緩やかな回復基調が維持されるため政策金利を現行水準で据え置くと見ている[図表2、図表26]。ただし、インフレリスクが顕在化する場合、特に成長率の下振れやディスインフレの想定以上の進行が懸念される場合にはさらなる追加利下げがなされるだろう。

 

ドイツ10年債金利は米金利低下やリスクプレミアム圧縮により、今後は2%台半ばまで低下し、25年平均2.6%、26年平均2.4%、27年平均2.4%と予想している[図表2、図表26]。また、フランスなど政治の機能不全が目立つなかではあるが、財政ルールを無視した財政赤字の急増リスクも限定的と見られECBの介入を必要とするような金利や対独スプレッドの急上昇は発生しないと予想する。 

 


16 新しい排出量取引制度(ETS2)はインフレ率の押し上げ要因となる見込みだが、導入が当初予定の27年から28年に延期されることを想定している。European Commission, Commission proposes targeted adjustments to the Market Stability Reserve Decision to support a smoother start for ETS2, 27 November 2025(25年12月11日アクセス)、European Parliament, 2040 climate target: deal on a 90% emissions reduction in EU climate law(25年12月11日アクセス)。

 

リスク:上下双方にリスク

成長率については、需要項目の消費、投資、輸出のいずれにもリスクが双方向に存在する。

 

消費は、景況感の改善や貯蓄率の低下の程度に不確実性がある。予想以上に貯蓄率が低下する場合には消費の活性化が成長を押し上げるだろう。一方で貯蓄率の高止まりが長期化する場合には、低めの成長率が続くだろう。

 

投資は復興基金や防衛・インフラ投資の実行ペース、公共投資の拡大を受けた民間投資の盛り上がりに不確実性がある。見通しでは、復興基金は現時点での同等ペースでの進捗を見込んでおり、未消化分が発生する見込みである[図表27]。ただし、26年末で終了することから、最終年に向けて今後の進捗が加速する可能性がある。ドイツのインフラ投資は、26年以降は予算並みの公共投資が実行されることを想定している。ただし、計画・承認手続きの遅延や人手不足といった供給制約のために26年以降の予算消化に遅れが生じる可能性がある。一方で、見通しでは防衛費やインフラ投資分野の財政拡大が民間投資を喚起する効果はごく限定的と見ているが、民間部門の投資拡大の呼び水となれば、成長がさらに押し上げられる可能性がある。

 

[図表27]復興基金(RRF)の資金分配状況

 

輸出(域外環境)については、まず、トランプ政権の政策に関する不確実性が高い。係争中のトランプ関税が違憲と判断され(無効となり)、対米輸出環境が改善する可能性がある一方で、米欧間の対立が再燃してさらに関税が引き上げられる可能性も残っている。また、米中対立が激化すれば両国経済ともに低迷し、また両国の関税強化やレアアースなどの輸出規制の強化などの貿易障壁を通じて間接的に欧州経済にも悪影響をもたらす可能性もある。現在のところ、世界経済は今までのところ底堅く、一因としてAIを中心としたIT関連産業の成長期待が株高や投資が米国や世界的な需要を支えている面がある。これらの分野への期待の剥落が、株安や金融環境の悪化とも相まって世界的に成長率の減速をもたらすリスクがある。

 

インフレ率については、成長率の上振れ・下振れがそれぞれインフレ率の上振れ・下振れ要因となるほか、上振れリスクとして関税による貿易網の混乱から生じるコスト高、地政学的緊張の高まりによる商品価格の再高騰、悪天候による農作物価格の上昇を指摘できる。一方の下振れリスクとして、ユーロ高による輸入物価の想定以上の低下、中国などの安価な財の流入圧力がさらに強まりディスインフレが予想以上に進行するリスクがある(ただし、当該リスクが高まった場合には、EUもセーフガード等の措置を講じると思われ、影響が一定程度軽減される可能性もまた高いだろう)。

 

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年12月12日に公開したレポートを転載したものです。

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