意を決して娘に相談。「ごめんね、でも実は私も……」
週末、いつものようにユリエさんが葵ちゃんを連れて家を訪ねてきたとき、圭子さんは切り出しました。
「今年のクリスマスのことなんだけれどね……」
正直に、物価高で負担が大きくなったこと、ケーキの値上がりに驚いたことを話しました。
すると娘は、少し驚いた顔をしたあと、こんなふうに言ったのです。
「お母さん、そこまで負担をかけていたなんて、ごめんね。でも実はね、私もケーキのことで相談しようと思ってたの」
どういうことかと尋ねると——。
「実は夫が健康診断で引っかかっちゃって。元野球部で体格がいいのはいいんだけど、やっぱり体重も脂肪も気になってきたみたいで……“しばらく甘いものやカロリーの高いものは控えよう”って話してたの」
思い返すと、娘の夫・剛さん(50歳)は典型的な“元体育会系”。がっしりした体格で、食卓に並ぶ圭子さんの料理を、
「美味しい、美味しい! お義母さんの煮物は最高です」と、誰よりも嬉しそうに食べてくれるタイプでした。
「ほら、お母さんのお料理が美味しいから、つい食べちゃうみたいで……家でもすごいんだ」
ユリエさんは、少し肩をすくめながら苦笑しました。
言われてみれば、圭子さん自身も“喜んで食べてくれる”剛さんが嬉しくて、つい唐揚げを山盛りにしたり、煮物を多めに作ったりしてしまうことがあったのです。
「だから、クリスマスケーキも今年は5号にして、私が買うよ。それか、葵と一緒にみんなで作ってもいいしね。夫は正直食べ過ぎだったし、食費もかかっていたよね? お母さん、本当にごめん。これからは私がちゃんとするから。いい大人なのに」
そう言う娘の表情は、どこかほっとしているようでもありました。
その瞬間、圭子さんは胸のつかえがすっと取れるような気持ちになりました。そして「やっぱり剛さん、食べ過ぎだったんだ……」と思いました。
「これからは“できることを無理なく”」70歳が見つけた新しい距離感
「今年は小さめのケーキで十分。手作りでもいいねって話になって……。気持ちがすごく軽くなりました」
圭子さんは、そうほっとした表情で語ります。
孫は可愛い。娘たちの力にもなりたい。しかし、自分たちの老後を考えると“続けられる負担”に収めることは、家族の関係を長く健やかに保つためにも必要です。
「娘も“無理しないでね”って言ってくれて。これからは、お互いできる範囲で支え合えればいいな、って思えるようになりました」
孫への愛情と、年金生活の現実。その間で揺れていた圭子さんが見つけたのは、「背伸びしない家族のあり方」でした。
高齢化が進む今、多くの家庭にとってこの小さな話し合いこそが、これからの“無理のない家族関係”を作るヒントになるのかもしれません。
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