本連載は、東京大学大学院の技術経営戦略学専攻特任教授である阿部力也氏の著書、『デジタルグリッド』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、電力自由化・インターネット化で大きな転機を迎えている、電力業界の実情を見ていきます。

価格競争や技術開発を強く後押しする電力自由化

今まで電力会社の電力というのはまるでレストランに入って選べる食事がフルコース1種類しか無いかのようなものでした。フルコースの内容は立派です。

 

食事の名前は「ベスト・ミックス」です。食材は原子力、石炭火力、ガスコンバインド、石油火力、水力発電、揚水発電、風力発電、太陽光発電など全てがバランスよくミックスされた電気です。価格も定まっていて交渉の余地はありません。

 

お客さんが、アラカルトでガスコンバインドと水力を少しずつというような注文をしたとしても受け付けてもらえません。石炭火力はいらないとか、原子力発電はいらないとかいうわがままは許されません。これがベスト・ミックスなのですと、説き伏せられるのが落ちでした。

 

電力会社以外にも地方自治体の公営水力や共同火力などの電源がありましたが、これらが地元の顧客に提供されるかというとそれはできずに、いったんベスト・ミックスの中に取り込まれてしまいます。地元で発電しても受け取るのは、すべてほかの電源とミックスしたものでしかありませんでした。

 

しかし、これから電力自由化が進むと、ときにはアラカルトメニューも選べるようになります。地元で作った素材を地元で食べるのと同じように、地元で発電した電力が近隣で消費できるようになるでしょう。価格もまちまちとなり、競争も生まれてきます。同じ発電方式でもさまざまな特色を競い合うようになります。新発電技術の技術開発も促進されるでしょう。

 

アラカルトが注文できるようになると、さまざまなレストランができ、さまざまな料理が生まれてくることが想像できますね。

 

電気の世界でも、素材の電気だけではなく、それで作った製品なども多様なものが生まれてくるでしょう。

消費者が、簡単に供給先や電源の種別を変更できる

それらの商品を供給者がさまざまなセットメニューにしたり、様々な料金体系と組み合わせて提供したりするというのが従来のイメージでした。あくまでも生産者側の必要性に合わせて提供するという考え方です。

 

しかし、インターネットの普及した現代においてはかなり様相が違います。消費者自身が簡単に供給先や電源の種別を変更するということができるようになりました。消費者が強い選択肢を持つことになるのです。

 

また消費者ニーズを取りまとめるサービスプロバイダーという事業についても、前の章(本書籍をご覧ください)で述べた通り大いに普及してくるでしょう。

 

電源構成や電力システムについて、あるいは補助金の制度について、政府が案を作り、パブリックコメントを求めるというような仕組みは、今まで非常によく機能していました。しかし、これからは消費者の直接の選択ということが市場を決定するでしょう。さらには電源構成すら決定していくことになるでしょう。

 

アラカルトメニューが選べるということは、小さな変化のようでいて劇的な変化をもたらすのです。

デジタルグリッド

デジタルグリッド

阿部 力也

エネルギーフォーラム

電力がかつてないほど市民の口の端に上るようになり、さまざまな議論が活発になされるようになりました。しかし、電力の仕組みをわかりやすく解説した本が少ないのが現実です。 その点で本書は、図を一切使わず電力技術が誰に…

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