42歳の娘、まさかの「独立宣言」に母、呆然
木村信子さん(仮名・67歳)は夫・正成さん(仮名・69歳)、そして今年42歳になる娘・桂子さん(仮名)と3人暮らし。桂子さんは実家を離れたことは一度もありませんでした。
数年前までは「いい人はいないの?」「独り暮らしをする気はないの?」と聞いたものですが、桂子さんが30代後半になったあたりから、「この子はずっとこの家にいるんだろう」と自然に受け止めていたといいます。
ところが、ある日、夕食の席で桂子さんがこう宣言したのです。
「私、一人暮らしすることに決めた」
信子さんは驚きました。いまさら一体なぜ……?
聞けば、桂子さん自身「もしかしたら結婚するかも」と思い続けて実家にいたが、もうないと考えたこと、だったらせめて自立したいと考えたこと。それが理由でした。
自立するのはよいことですし、止めるわけにもいきません。信子さんはすぐに引っ越し先を見つけて巣立っていく娘を、静かに見つめていました。
母親が直面した「空の巣症候群」
程なくして信子さん夫婦2人だけの生活が始まりました。そこで直面したのが、家計の一部を桂子さんからの入金に頼っていたことによる経済的な不安です。
夫婦合わせた年金額は月25万円。同居していた時は桂子さんが月5万円を家に入れており、一家の収入は月30万円ありました。一方で平均支出は月27万円ほど。そのおかげで、たまには3人で外食したり、年に1度近場に旅行に行ったりすることもできたのです。
今後は自分たちの年金だけで収支を管理しなければなりません。それでも、娘1人がいなくなる分、支出は大きく減ると考えていました。
ところが、そもそも桂子さんは朝は食パンとコーヒー程度。夕食は家で食べることが多かったものの、ランチは自分の収入から。休日は友人と出かけることが多く、それも自分の収入から出していました。桂子さんがいなくなっても、食費は1万円ほどしか減りません。
水道・光熱費も少し減った程度で、その他を加味しても、3人から2人に変わっても生活費は大きく減らないことが判明しました。
生活は一気に厳しくなりました。娘が巣立ってからの1ヵ月で、赤字は1万円ほどに。突発的な出費があれば、今後さらに大きくなります。年を重ねれば医療費がさらに多くなるかもしれないし、介護費用も。貯蓄は2,000万円ほどありましたが、不足分を埋めるために切り崩し続けたら、どうなるのか……。
不安は経済的な面だけに留まりませんでした。
これまで桂子さんが手伝ってくれていた買い物や掃除。夫の正成さんは「家に女が2人いるから」と、何もしないことが当たり前になっていました。信子さんは、すべて自分がやらなければならないことに、身体的な負担を感じ始めたのです。
家庭内の雰囲気も一変しました。桂子さんはいわば家のムードメーカー。会社であったことや最近の流行りの話題などを話してくれるため、家の中はいつも明るかったといいます。
しかし、桂子さんがいなくなったことでほとんど会話のない状態に。もともと口数の少ない夫。2人の話題といえば天気や食事のことばかりで楽しくありません。
「夫と2人だけの生活がこんなにも疲れるなんて……」
そう信子さんが感じるようになったのは、無理もないことでした。
