だから、あなたはダメなのよ…冷たい妻の視線。やり手の60歳元営業部長が「屈辱の退職」、家でゴロゴロ・ぼんやりテレビのワケ【CFPの助言】

だから、あなたはダメなのよ…冷たい妻の視線。やり手の60歳元営業部長が「屈辱の退職」、家でゴロゴロ・ぼんやりテレビのワケ【CFPの助言】
(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後も65歳までは同じ会社で働ける――そう信じていたにもかかわらず、納得のいかない辞令を受け、結果として早期退職という選択を迫られる人もいます。「自分は仕事ができる」「長年会社に貢献してきた」というそんな自負があるほど、その衝撃は大きくなります。今回は、トータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が、定年後の働き方と職場で本当に評価される力について解説します。

順調だった会社員人生が終焉した日

修一さん(60歳)は、地方の製造業に勤めています。30年以上同じ会社で働き、管理職として部下を率いてきました。「仕事ができる」「会社への貢献は大きい」という自負がありましたが、そのプライドがへし折られる事件が起きます。

 

修一さんが60歳の誕生日を迎える少し前、人事部から呼び出されました。修一さんは継続雇用を希望していたので、その話だとはわかっていました。ところが、その内容は修一さんの想定から大きく外れるものでした。

 

提示された配属先は、30年以上携わってきた営業や現場管理とはまったく関係のない部署。対外折衝や数字を追う仕事ではなく、社内の書類管理や備品手配といった、いわゆる総務系の補助業務が中心になると説明されました。役職はなく、これまでの経験や判断力を生かす場面はないように感じました。

 

さらに、年収は700万円から450万円へ。「3割程度下がる」と聞いていたものの、実際はそれ以上の減少幅でした。配属先の給与水準に合わせた結果だと、人事は淡々と説明します。

 

条件が下がること自体は覚悟していました。しかし、自分が積み上げてきた実績を無視した配置に強いショックを受けました。同じように継続雇用を選んだ先輩たちは、営業なら営業、企画なら企画と、慣れ親しんだ現場に残っていたからです。

 

修一さんは、自分の顔をが真っ赤になるのを感じました。会議室の机の下でこぶしを握り締め、「俺を馬鹿にしているのか」と、思わず口にしそうになったといいます。

継続雇用で突きつけられた現実

誤解されることもありますが、定年後の継続雇用は「今までと同じ条件で働ける制度」ではありません。役職は外れ、給与は下がり、責任範囲も変わるのが一般的です。

 

修一さんも頭では理解していたつもりでした。しかし、実際に提示された条件は、想像を上回る、納得できないものでした。しかし、これは修一さん自身が招いた種でした。

 

修一さんは、数字や成果で評価される仕事をしてきました。部下には厳しく、効率や結果を最優先に求めるタイプです。「感情論は不要」「仕事は結果がすべて」――それが修一さんの持論でした。

 

修一さんは強いリーダ―シップを発揮してきた一方で、体格がよく声が大きいこともあり、周囲を委縮させていました。部下や同僚にとっては、「近寄りがたい」「圧迫感がある」「融通が利かない」という人物像。本人は気づいていませんでしたが、現場では長い時間をかけて不満が蓄積していました。

 

現役時代は成果を出していたため、表立って問題になることはありませんでした。しかし、定年という立場が変わるタイミングで、その悪い評価が一気に表に出てきたのです。

 

修一さんの部下が、修一さんが同部署に残ることに難色を示したという噂も。その部下が上司となり、修一さんが部下になる――それが難しいという判断だったといいます。

プライドの高さが選択肢を狭める原因に

継続雇用後の配属を決める際、会社が見ているのは能力だけではありません。むしろ、「その人が配属先の現場でうまくやっていけるか」が重視される傾向にあります。

 

修一さんの場合、「経験や知識はあっても、協調性の面で不安がある」と判断されました。 結果として、チームワークが求められる部署からは外されたのです。

 

これは決して懲罰ではなく、会社としてはトラブルを避けるための、合理的な判断でした。しかし、本人にとっては「評価されていない」「追い出される」という感覚しか残りません。

 

修一さんは、提示された配属先を受け入れられず、「こんな扱いを受けるくらいなら辞めたほうがましだ」と思うようになりました。結局、継続雇用を辞退し、60歳で退職する道を選びました。

 

しかし、いざ会社を離れると、想像していた以上に喪失感が大きかったといいます。収入を失っただけでなく、「社会とのつながり」が急に薄れたことが、特に精神的に堪えたとも。

 

60歳は隠居するには若すぎます。毎日することがなく、喫茶店で時間をつぶしたり、家でゴロゴロする日々。プライドを傷つけられたダメージもあり、再就職に動き出す気力もわきません。

 

妻からの冷たい視線に「退職金をもらっただろうが」と、つい高圧的になると、「あなたはそんなだから、会社に残れなかったのね」という言葉に、また心をえぐられます。

 

「あのとき、もう少し柔軟に考えられなかったのか」……そう思うこともありますが、後悔をしても、二度と戻ることはできません。

定年前から問われている「実績」よりも大切なもの

「部下が上司になる日」「肩書がなくなる日」――それは特別なことではなく、会社で働いている以上多くの人が通る道です。そのときに必要なのは、過去の実績よりも、「どう振る舞えるか」です。

 

年齢や経験をひけらかすのではなく、相手を尊重し、学ぶ姿勢を持てるかどうかが問われます。 定年後の働き方は、現役時代の延長ではありません。むしろ、人としての姿勢が、そのまま評価に反映されるステージなのです。

 

修一さんは、いつのまにか周囲から浮いてしまい、継続雇用にも辿りつかなかったケース。65歳までの5年間の収入と会社の居場所を同時に失いました。しかし、もし甘んじて提示されたポジションで働いていたとしても、長続きしたかどうかはわかりません。

 

というのも、「仕事ができる自負」が強い人ほど、環境の変化に適応できず、苦しむことが多いからです。一方で、人当たりの良さや協調性は、年齢を重ねるほど価値を増します。

 

定年後も働き続けたいと考えるなら、今のうちから周囲との関係性を見直すことが、何よりの備えになるのかもしれません。肩書がなくなっても、「一緒に働きたい」と思われる人でいられるか。それが、仕事人生の後半を穏やかに過ごすための、重要な分かれ道だといえるでしょう。

 

 

新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®

 

 

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