「私たち、使いすぎちゃったかもしれない」
「まさか、自分たちが“老後不安”を感じるとは思ってもみませんでした」
そう語るのは、東京都内に住む佐々木明さん(68歳・仮名)と妻の玲子さん(65歳・仮名)夫妻。ともに大手企業を定年退職後、公的年金として夫婦で月26万円を受給し、退職金や預貯金を合わせて3,800万円の老後資金を保有していました。
「子どもも独立していたし、家のローンも完済済み。“さあ、これから第二の人生だ”という気持ちでしたね」(明さん)
夫婦はかねてから「老後は我慢しない」をモットーに、毎月1回のペースで国内旅行へ。さらに、年に1度は海外旅行へ行くのが恒例行事に。
「孫が4人いるんですが、お誕生日や入学祝い、クリスマス、ちょっと会ったときのお土産まで……つい、喜ぶ顔が見たくて出費を惜しまなくなっていました」(玲子さん)
そんな生活が続いたある日、玲子さんは久々に貯金残高を確認し、思わず声を上げました。
「えっ……こんなに減ってるの?」
ふたりで現役時代にコツコツと貯めてきた3,800万円のうち、約1,500万円がこの数年で消えていたのです。もちろん、計画的に取り崩していた部分もあります。しかし、想定以上に早く現金が減っていました。
「旅行1回で10万〜15万円はすぐ飛びますし、孫のために使う額も月単位で見れば大きい。たまの贅沢のつもりだったものが、いつの間にか“日常”になっていた」(明さん)
現金が減った背景には、インフレや社会保障制度の変化もあります。2022年以降、物価は上昇傾向が続いており、総務省『家計調査年報(2024年)』によれば、65歳以上の夫婦のみの無職世帯において、1ヵ月あたりの実収入は約25.2万円、可処分所得は約22.2万円。一方で、消費支出は約25.6万円にのぼり、毎月約3.4万円の赤字が発生しています。
また、高齢期には医療費・介護費も無視できません。70歳以上の自己負担割合は1~3割ですが、高額療養費制度の上限を超える出費が続けば、家計への影響は大きくなります。
「病気になってから“節約モード”に入っても、遅いですからね。今のうちに生活を見直さなきゃと、夫婦で話し合いました」(玲子さん)
