この学校でよかったのか…?転居して選んだ“自然豊かな公立校”
「今でも、あの選択が正しかったのか、考えることがあります」
そう語るのは、都内の企業に勤める小野寺大輔さん(42歳・仮名)。妻の美和さん(38歳・仮名)と小1の息子との3人暮らし。世帯年収は約1,400万円。都心のマンションから郊外へと移り住んだのは、子どもの教育方針に関する話し合いがきっかけでした。
「自然の中でのびのび育ってほしい、学力ばかりでなく心も豊かに。私立に通わせる家庭が多い地域だと、どうしても“競争”が前提になってしまう。それがイヤで、“あえて”公立校を選びました」
周囲からは「もったいないんじゃ?」とも言われたといいますが、「お金をかければ教育が成功するわけじゃない」という思いから、通学区域を絞って引っ越しまで行いました。
ところが、入学して間もなく、夫婦は思わぬ“違和感”を抱くようになります。
「息子の話を聞いていると、“鉛筆がない子がいた”とか、“ドリルを持ってこられない子がいる”とか。教室の雰囲気が、私たちが想像していた“公立校”とちょっと違ったんです」
懇談会で顔を合わせた保護者たちの話からは、家庭ごとの経済状況や価値観の違いが感じられ、「ランドセルが中古だった」「体操服を洗い替えできない」などの話も耳にしたといいます。
「自分たちが“場違い”なのではと感じました。子どもが『XXくんの家にはお風呂がないんだって』と話してきたとき、何と返せばよいのか戸惑ってしまって…」
「格差」は、家庭の経済状況だけでなく、学習習慣や語彙力、生活リズムなど、あらゆる面ににじみ出ます。とくに低学年では、親の関与が強く影響する時期です。
実際、文部科学省の『全国学力・学習状況調査』などによる分析の結果、家庭での読書習慣や保護者との対話時間といった生活・学習習慣を示す指標は、児童生徒の学力と高い正の相関関係があることが毎年確認されています。小野寺さん夫妻が懸念するように、格差は単なる金銭的な問題ではなく、家庭の教育リソースの差として現れてしまうのです。
小野寺さん一家の息子は、保育園時代から読み聞かせや習い事に親しんできましたが、小学校では「話が通じにくい」「授業が遅く感じる」といった悩みを抱くようになったそうです。
「最初は“いろんな子がいて当然”だと思っていたんです。息子にもそう話していました。でも、テストで名前すら書いていない子が何人もいたり、先生が一人でクラスを回すのに手いっぱいになっていたり。授業そのものが成り立っていない時間もあって…。『これが6年間続くのか』と思ったら、急に不安になってしまって」
そう話す美和さんは、学校に過度な期待を寄せすぎていたのかもしれないと振り返ります。公立校に通う以上、経済的な背景も、家庭の教育方針も、実に多様であることは理解していたつもりだった。けれど実際に“日常”として目の前に現れると、想像以上に重くのしかかったといいます。
「誰も悪くない。だからこそ、モヤモヤが残るんです。私たちの選択が、子どもにとって最善だったのか。何が“普通”なのか、わからなくなりました」
