「理想の田舎暮らし」に飛びついた夫婦
「田舎の一軒家で、畑をやりながら暮らしたい」
そう語っていたのは、東京都内で定年まで働いた元会社員の石川和雄さん(仮名・当時70歳)。妻の節子さん(69歳)とともに、郊外のマンションを売却し、関東北部の地方都市にある築30年超の中古住宅を購入しました。
庭付きで、畑スペースもある80坪の土地。価格は800万円と手頃で、月額18万円の年金があれば生活費も問題ない——はずでした。
「まさか、3年でこうなるとは…」
和雄さんの息子・弘樹さん(41歳)が、久々に実家を訪れた際に見たのは、荒れ果てた庭と雨漏りのする家、そして、生活費で使い果たされた通帳の残高ゼロという現実でした。
「最初は張り切っていたんです。草刈りやDIYも楽しかったみたいで」
と弘樹さんは振り返ります。しかし移住後1年も経たないうちに、和雄さんが腰を痛め、車の運転も困難に。最寄りのスーパーは片道5キロ、病院はバスで1時間かかる距離にあり、妻の節子さんだけでは生活を回せなくなっていきました。
車が使えなくなったことで、買い物や通院など日常のすべてが困難に。いわゆる「買い物難民」「交通弱者」と呼ばれる高齢者の現実に直面することになります。
国土交通省の調査でも、75歳以上の約4人に1人が「移動に困難を感じている」とされており、地方移住が高齢者の生活をむしろ狭めてしまう例も少なくありません。
築30年超の住宅には、当然ながら修繕が必要でした。雨漏り補修、トイレの水漏れ、シロアリ対策……1つ1つは小さくとも、積もり積もって年間30万円以上の出費となりました。
さらに和雄さんの通院費用やタクシー代がかさみ、年金では賄いきれずに貯金を取り崩す日々。
「気づけば、銀行の残高は数千円でした」
弘樹さんが驚いたのは、生活が困窮しているにも関わらず、両親が「まだなんとかなる」と言い張っていたこと。外部の支援を拒み、親族にも相談せず、ついには光熱費も滞納しかけていたといいます。
