「老後はハワイで」──憧れの移住
「年金月20万円あるし、格安物件に住めばなんとかなると思ったんです」
そう語るのは、埼玉県出身の田代和男さん(仮名・現67歳)。定年退職後、退職金と預貯金を元手に、妻とともにハワイ・オアフ島に移住。築50年・1LDKのコンドミニアムを約3,800万円(当時レート)で購入し、「第二の人生」をスタートさせました。
「何十年も働いてきた自分へのご褒美、という気持ちでした」
当初は海沿いの生活に心を躍らせ、サンセットを見ながら夫婦でワインを楽しむ日々。しかし、そんな生活は長くは続きませんでした。
「最初の数ヵ月で、生活費の感覚が完全に狂いました」
田代さん夫妻が直面したのは、予想以上の物価高と円安。食費は毎月12万〜15万円かかり、医療保険(海外滞在者用)は月額約7万円。管理費や税金、交通費も高額で、年金月20万円では到底足りず、毎月数万円ずつ貯金を取り崩す生活に。しかも、渡米後に急激に進んだ円安が追い打ちとなり、日本円での生活資金が目減りしていきました。
「節約するにも限界がありました。カップラーメンで1食4〜5ドルすることもあるんですよ」
さらに移住から1年後、妻が持病の腰痛を悪化させました。しかし、現地の医療機関で受診するには、1回数百ドル(数万円)単位の医療費がかかることも多く、日系クリニックでの通訳サービスにも追加料金が発生。
「怖くて病院に行けませんでした。健康なうちに帰るべきだった」
そして、生活費を切り詰めながらも滞在を続けた結果、渡航から2年で貯金は当初の3分の1以下に。さらに、ハワイで購入した物件も「高額な管理費や修繕積立金が重くのしかかる一方、買い手がつかない」という“出口のない資産”となっていました。
「本当はゆっくり荷物をまとめて帰りたかった。でも、日本の口座に残っていたお金を使ってチケットを手配し、ほとんど夜逃げのように帰国しました」
