家族会でも見えた“価値観の違い”
施設側の対応に疑問を抱いた石井さんは、他の入居者家族との懇談会で相談してみました。
「すると、他の方々は“やってくれるなら任せた方がラク”という意見が多かったんです。その価値観自体は否定しませんが、私たちには合わないと痛感しました」
夫婦は相談の末、入居から半年で自主退去を決断。現在は一時的に自宅へ戻り、在宅介護サービスを受けながら、新たな選択肢を探しているといいます。
介護付き有料老人ホームは、入居金や月額費用が高額であるぶん、「最期まで安心して暮らせる」という期待を抱きやすい施設形態です。
しかし、国民生活センターには近年も「職員対応」「介護内容の説明不足」「退去時の返還金トラブル」など、施設と入居者側の“認識のギャップ”に関する相談が寄せられています。
また、厚労省の調査によると、入居後1年以内に退去するケースも一定数存在しており、その理由の上位に「本人と施設の相性」や「介護内容に対する不満」が挙げられています。
「これからは“何をしてくれるか”より、“どう寄り添ってくれるか”を重視して探したいです」
現在、石井夫妻は、定期巡回・随時対応型訪問介護や、24時間対応の小規模多機能型居宅介護など、より柔軟な選択肢も視野に入れ、見学を重ねています。
「退職金や年金があるからこそ、自分たちで“最期まで納得できる場所”を探す責任があると思っています」
そう語る石井さんの表情には、迷いよりも確信の色が浮かんでいました。
介護付き施設は、手厚い支援や設備が整っている一方で、そこでの暮らしが“本当にその人らしい最期”につながるかどうかは、画一的なサービスだけでは決まりません。必要なのは、費用やパンフレットの情報だけでは見えない、「生活感」や「職員との相性」「ケア方針との一致」といった、きわめて個人的で本質的な視点です。
老後の住まい選びに“絶対の正解”はありません。だからこそ、どんな人生を送りたいか、何を大切にしたいか――本人と家族が早めに対話を始めることが、後悔のない“終の住処”につながる第一歩となるのかもしれません。
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