ゆっくり旅行でも行きたいね…「理想の老後」を思い描いていた58歳夫に〈53歳妻〉が放った衝撃のひと言とは?〈世帯年収1,800万円〉〈週半分婚夫婦〉の静かなすれ違い

ゆっくり旅行でも行きたいね…「理想の老後」を思い描いていた58歳夫に〈53歳妻〉が放った衝撃のひと言とは?〈世帯年収1,800万円〉〈週半分婚夫婦〉の静かなすれ違い
(※写真はイメージです/PIXTA)

夫婦仲は悪くない。週末には映画にも行く。そんな川原宏明さん(58歳・仮名)は、定年後は夫婦でゆっくり旅行をするものだと信じていました。ところが妻の美智子さん(53歳・仮名)から返ってきたのは、「旅行は一人で行きたい」という予想外の言葉。週の半分を地方出張で過ごす“距離のある暮らし”が、二人の価値観に静かなズレを生んでいたのです。50代夫婦が直面した“老後の距離感”とは?

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「ゆっくり旅行でも行こう」妻の返事にショックを受けた夫

東京の郊外で暮らす川原宏明さん(58歳・仮名)と、妻の美智子さん(53歳・仮名)は、高校2年生の娘を育てる3人家族です。夫婦仲は悪くありません。共働きで世帯年収は1,800万円あり、贅沢をしなければ生活にはゆとりがあります。

 

宏明さんは10年ほど前から、週の半分を地方支社で過ごす勤務スタイルが続いています。適度な距離感が、夫婦にとって心地よい関係を保ってきたのかもしれません。

 

そんなある日の夜のことです。夕食後、宏明さんは、ふと将来の話題を口にしました。

 

「娘が大学に行ったら、二人でゆっくり旅行でもしながら過ごしたいね。定年後は海外とか、行ったことのない場所にも行ってみたいな」

 

ところが返ってきた美智子さんの言葉は、予想外のものでした。

 

「え? 旅行は一人で行きたいの。あなた、旅行苦手じゃない? 温水洗浄便座がないと嫌だって言うし、国内より海外が好きな私と合わないでしょ。娘が大学に行ったら、私は自由に旅行するつもり。そのために働いているようなものだし」

 

あまりに即答だったため、宏明さんは言葉を失ってしまいました。

 

美智子さんは続けます。

 

「あなたが出張でいない生活に慣れちゃって、今の“一人の時間”が結構気に入っているのよ。だから定年後も私は私のペースで生きたいの」

 

その日の夜、宏明さんは人知れず深く落ち込んだといいます。

 

「夫婦で過ごす老後」を当然のように思い描いていた自分と、「一人の時間を優先したい」と考える妻。

 

二人の意識の違いは、思っていた以上に大きかったのです。

 

しかし、そうは言っても夫婦仲が悪いわけではありません。この前の週末も大人の恋愛がテーマの映画を見に行ったばかり。映画を見たあとにお茶をしながら内容について話す時間は、二人にとってかけがえのないひとときです。

 

宏明さんが家にいるときは自然に会話も弾み、買い物に一緒に出かけることもあります。だからこそ、美智子さんの言葉は宏明さんにとって大きな衝撃だったのです。

仲良し夫婦でも4時間は「長すぎる」

株式会社ハルメクホールディングス/ハルメク 生きかた上手研究所が全国の50~79歳・既婚の男女600人を対象に実施した『夫婦関係に関する調査2025』によると、夫婦関係の満足度は68.7%。前年より2.4ポイント増加し、特に女性50代、60代が9~13ポイントの大幅上昇という結果に。満足度が高い層は、幸福度も高い傾向が見られました。

 

また、一緒に過ごす時間が「長すぎる」と感じる時間は、仲良し夫婦が平日平均約4時間、不仲夫婦が約2.5時間と、約1.5時間の差がありました。逆に「短すぎる」と感じる平均時間は仲良し夫婦で83.7分、不仲夫婦は79.2分と仲良し夫婦のほうがやや長いという結果になりました。

 

妻の本音を知った夫が抱えた“もう一つの気づき”

あまりにも落ち込んでいる宏明さんを見た美智子さんは、ふと表情を緩めてこう言いました。

 

「何もあなたのことが嫌というわけじゃないのよ。でも、私はもともと一人で過ごす時間を大事にしたいタイプだって知っているでしょう? お互い週の半分しか顔を合わせないから、うまくいっている部分もあると思うの。この生活になる前は、結構ケンカも多かったじゃない。忘れちゃった?」

 

たしかに、宏明さんにも思い当たる節がありました。

 

地方出張が始まる前、宏明さんは常に家にいて、細かなことで意見がぶつかることが増えていました。娘の教育方針から家事の分担、リビングの使い方、休日の過ごし方、片付けの仕方……。小さな不満が積み重なり、夫婦は何度も険悪な空気になったといいます。

 

「今、あなたと程よい関係を築けているのは、私が自分の時間も大事にしているからだと思う」と、美智子さんは静かに続けました。

 

その言葉を聞いて、宏明さんはふと気づきました。

 

——自分も、出張先ではけっこう一人の時間を楽しんでいる。

 

地方のビジネスホテルで、コンビニのつまみと缶ビールを片手に、スポーツ中継を見ながらダラダラ過ごす夜。好きな時間に好きなものを食べて、翌日の予定だけを考えて眠る。そんな自由さが、意外と嫌いではありませんでした。

 

「考えてみれば、僕も一人の時間を満喫しているんです」宏明さんは、ぽつりとそう認めざるをえませんでした。

 

けれど同時に、どうしても胸に残る思いがありました。

 

「……それでも、定年後の旅行くらいは一緒に行きたいんだけどな」

 

そんな宏明さんの複雑な表情を見ていたのか、美智子さんがふと柔らかい声で言いました。

 

「まあでも、国内旅行くらいだったらいいかな。あなたの出張先にも結局行ったことないし、案内してよ」

 

その瞬間、宏明さんの胸にふっと灯りがともったといいます。

 

「本当にいいの?」と尋ねると、

 

「うん。あなたが案内してくれるなら安心だし、知らない街を散歩するのは好きだから。海外は一人で行くにしても、国内くらいは一緒に楽しもうよ」

 

美智子さんは、あくまで自分のペースは大切にしたい。けれど、夫との思い出を作ることを拒絶しているわけではありませんでした。

 

宏明さんは、その“折り合いのつけ方”に救われた気持ちになったそうです。

 

「全部一緒じゃないといけないわけじゃない。その考えに僕もずいぶん縛られていたんだな、と思いましたね」

 

専門家が見る「夫婦の距離感」

夫婦の距離感について、ハルメク 生きかた上手研究所 所長・梅津順江(うめづ・ゆきえ)さんは、今回の調査結果を踏まえてこう話します。

 

「今年、印象的だったのは『一緒に過ごす時間』の適量です。仲良し夫婦のボーダーは“3時間”、不仲夫婦では“1時間”。3時間を超えると、仲良し夫婦でも『長すぎる』と感じ始める人がいるということです。長く一緒にいるほど仲が良いわけではなく、心地よい距離感こそが幸福度を左右していることが明らかになりました」

 

さらに梅津さんは、調査時の自由記述に寄せられた声に注目しているといいます。

 

「自由記述からは『干渉せず、尊重し合う』『お互いの自由』を“ラストパートナー”に望んでいることが分かりました。平均36年連れ添った夫婦にとって、『常に一緒にいること』より、『適度な距離を保つこと』が関係を長く続ける秘訣なのです」

 

宏明さん夫婦のように、「全部一緒にしなくてもいい」「お互いの“ちょうどいい距離感”を見つける」という考え方は、今の50〜70代にとってむしろ自然な選択肢になりつつあるようです。

 

美智子さんが「海外は一人で行くけど、国内旅行は一緒でもいいかな」と言葉を添えた背景にも、こうした“自分の時間を大切にしながらパートナーを尊重する姿勢”が見て取れます。

 

無理に同じ方向を向かなくても、無理に同じ時間を共有しなくても、夫婦はちゃんと「一緒に歩いていける」。

 

それが、平均36年連れ添った夫婦たちが示している、現代の夫婦関係のかたちなのかもしれません。

 

[参考資料]

株式会社ハルメクホールディングス/ハルメク 生きかた上手研究所『夫婦関係に関する調査2025』

 

 

 

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