「あれ、残高がずいぶん減っている…?」
「何かの間違いかと思いました。でも、通帳には確かに“出金”の履歴がずらりと並んでいて……手が震えました」
そう語るのは、都内在住の会社員・岡本健一さん(仮名・52歳)。年末に約1年ぶりに実家へ帰省した際、87歳になる母・良子さん(仮名)が「通帳の記帳をお願い」と渡してきたのがすべての始まりでした。
「年金は月8万円。家賃や光熱費もかからない持ち家なので、何十年もかけて貯めてきたはずの預金がある程度残っていると思っていたんです。でも、記帳された明細を見たら、過去1年ほどで合計850万円以上が引き出されていた」
通帳には「ATM出金」「キャッシュカード引出」「窓口出金」の文字が並び、月に数十万円単位で引き出されている月も。しかも、その使い道について、母の記憶は曖昧でした。
「何に使ったの?」と尋ねても、「わからないけど、必要だったんだと思う」としか答えない母。健一さんは最初、詐欺被害や盗難を疑いましたが、通帳の記録はすべて正規の引き出し。誰かが母に付き添っていたわけでもなく、本人がATMで定期的に出金していた可能性が高いことがわかりました。
「母は認知症と診断されてはいませんが、最近少しずつ“もの忘れ”が増えている気がしていました。たとえば同じ食品を何度も買ったり、デイサービスの予定を勘違いしたり。お金の管理もその延長線だったんだと思います」
高齢者の“預金の使いすぎ”は、単なる浪費ではなく、認知機能の衰えによって金銭感覚が鈍る現象として知られています。
認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の段階でも、金銭管理の困難さが見られる場合があり、判断力や記憶力の低下が進むと、「何度も同じ商品を買う」「請求書を支払ったかどうか忘れて再度支払う」「怪しい勧誘に応じてしまう」などの問題行動が現れやすくなるといいます。
「母は昔から倹約家だったんです。お金にルーズな人じゃなかった。だからこそ、ここまで残高が減るまで誰も気づかなかったんです」
