「年金じゃ足りないでしょ」…続けた仕送り
東京都内で働く会社員の秋山理恵さん(52歳・仮名)は、10年前から離れて暮らす母・美智子さん(享年88)の生活を支えてきました。理恵さんは一人娘で、兄妹も親戚づきあいもなく、母の生活を心配する日々が続いていました。
「母はずっと“年金は月6万円しかない”と言っていました。だから私は、毎月5万円を仕送りしていたんです。光熱費や通院代、食費を考えたら足りないはずですから」
母は78歳で父を亡くし、それから一人暮らし。持ち家ではありましたが、築60年を超え、バリアフリーでもなく、理恵さんは「もう施設に入ったほうがいいんじゃない?」と何度も話を持ちかけていました。
「でも母は“誰にも迷惑かけたくないから”って。弱音を吐かない人だったので、私もあまり強くは言えなくて……」
そんな母が亡くなったのは、ある冬の朝。倒れていたのを訪問看護師が見つけ、理恵さんに連絡が入りました。心筋梗塞でした。
「直前まで元気に電話していたので、信じられませんでした。最後に話したとき、“そろそろ言っておこうと思って”って母が言ったんです。“押入れの奥、見てね”って。それが遺言みたいになってしまって」
葬儀を終え、実家を片付けていた理恵さんが押入れを開けると、古い桐箱の中に通帳や不動産の権利書、定期預金の証書がまとめて保管されていました。
「全部合わせたら、預金だけで1,800万円以上ありました。不動産も、隣の空き地を父が生前に購入していたみたいで。固定資産税の支払い通知なども、母が一手に引き受けていたようです」
想定外の資産に理恵さんは驚きました。同時に、毎月仕送りしていた10年間を思い、複雑な感情を抱いたといいます。
「困ってないなら言ってほしかった、って思いました。でも、母なりの“老後の備え”だったのかもしれません。何が起きても、最後まで人に頼らないようにって」
内閣府『高齢社会白書(令和7年版)』によると、65歳以上の女性の約2割が単身世帯で暮らしています。高齢女性の貧困リスクが指摘される一方で、配偶者を亡くした後も節約と自助努力で資産を守り抜く人もいます。
