「年金だけじゃ生活できない」“普通に暮らしてきた”人の老後現実
「これじゃ、とても生活できないな」
65歳になった当時、吉川正志さん(現在72歳・仮名)は、年金を受け取りながら実感しました。「ねんきん定期便を見たときから『大丈夫かな、この金額で』と思っていましたが、実際に年金受給者になって暮らしてみると、想像以上に厳しい現実が待っていたといいます。
年金は夫婦でおよそ月22万円。2歳年上の妻は時々パートをする程度だったため、国民年金に厚生年金がわずかに上乗せされた程度の支給です。
光熱費や食費、日用品などのほか、地方在住で自家用車が欠かせず、その維持費。40年近く前に買った戸建ての固定資産税や修繕費といった費用もかかります。
とはいえ、日常生活だけなら、手元にわずかでも残る程度の余裕はあったかもしれません。ところが、妻の体調が悪くなり、医療費や薬代が馬鹿にならないのだといいます。
「それ以外にも、孫が遊びにくればお小遣いをあげなきゃならない、家電が壊れることもあるし。想像していなかった出費が多くて。私が家でのんびりしてる場合じゃないんですよね……」
結局、正志さんは今も週に4日、近所のスーパーで品出しのアルバイトをしています。
「普通に暮らす」と貯金は思ったより残らない
正志さんは40年以上、会社員として勤め上げました。バブル期を経験し、ボーナスも退職金も支給された、今の若者から見ると“安定世代”という印象かもしれません。ですが、実際にはそんな人ばかりではないというのは、今の年金世帯を見れば納得です。
実際、日本の高齢者(66歳以上)の貧困率は、女性22.8%、男性16.4%とされ、上昇傾向にあります。
「地方なのでたかが知れているとはいえ、普通の会社員として生きてきました。娘と息子を大学に入れ、家を買い、車も数回買い替えた。でも、それって特別なことじゃないですよね。家は小さいし、車だって軽自動車です。本当に贅沢せず、堅実に暮らしてきたつもりです」
しかし、普通にやっていただけでは、貯金はなかなかできませんでした。退職時の貯金は1,200万円。支給された退職金は住宅ローンの残債払いで、ほぼ消えました。
「なんとかなるかもなんて思っていても、現実はどうもなりませんね。私、高卒で働いてるので、もう50年以上働きっぱなしですよ。それでも働けるうちはまだいいのかもしれない。縁側でのんびりなんて、夢のまた夢です」
