息子に通帳と印鑑を…「安心して任せたつもりでした」
「老眼が進んで、ATMの文字が見えにくくなってきたんです。通帳記入も、引き落としもよくわからなくて」
そう語るのは、東京都内で1人暮らしをしている83歳の女性・河村澄子さん(仮名)。3年前、健康上の不安もあって、当時56歳だった長男・誠さん(仮名)に通帳と印鑑を預け、「今後のお金の管理はお願いね」と託しました。
「長男は独身で、週に何度か顔を出してくれるし、“何かあったら俺がやるよ”って言ってくれていたんです。だから安心して任せたつもりでした」
しかし、1年半ほど経ったある日、誠さんから思いがけない言葉を告げられます。
「通帳も印鑑も、もう返すよ。もう、お金のことに関わりたくない」
突然の“関係断ち”に、澄子さんは言葉を失いました。
「生活費は毎月ギリギリです。年金は月14万円ほど。病院代や食費、電気代に消えていきます」
澄子さんの年金は、老齢基礎年金に加えてわずかな厚生年金がある程度。銀行の引き落とし状況を把握できていなかったため、預金残高も正確には分からないまま。
誠さんから返された通帳を見ると、残高はたったの約21万円。
「もっとあったはずだと思っても、いつ、何に使ったかは書いてありませんでした。レシートも記録もなくて、何も言えませんでした」
たとえ親子であっても、「口頭での依頼」だけでは財産管理の根拠が不明確になりやすく、トラブルの元になります。また厚生労働省は、家族や親族などが本人の財産を勝手に使ったり、金銭的な利益を不当に得たりする行為を高齢者の「経済的虐待」と定義しています。
