(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢夫婦のどちらかが亡くなったとき、残された配偶者が「生活のすべてがわからない」と戸惑うケースは少なくありません。中でも、家計管理や日常生活をパートナーに任せきりにしていた場合、その喪失は“実質的な生活能力の喪失”に直結します。資産があっても、年金を受け取っていても、“わからない”という不安と混乱は、誰にでも起こり得る現実です。

「なにもわからない…」妻に先立たれ、娘に毎日電話

「情けないけど、わからないんだよ…」

 

72歳の男性・宮田宏さん(仮名)は、都内近郊のマンションでひとり暮らしをしています。妻の和子さん(享年70/仮名)に先立たれて、まだ2ヵ月。近くに住む長女の真理さん(43歳/仮名)に、ほぼ毎日電話をかけています。

 

「今日は口座の引き落としがどうなっているか聞かれました。昨日は保険証券が見当たらないって…。母が生きていた頃は、何でも“お母さんに聞いて”でしたから」(真理さん)

 

通帳もカードも保険の管理も、すべて妻任せだった宮田さん。亡くなってから初めて「電気代はどうやって払っていたんだ?」「口座はどれを使っていたんだ?」と、慌てて整理を始めました。

 

宮田さんには月13万円の年金収入があり、貯金も約1,200万円あります。住まいは持ち家。日々の生活費に困っているわけではありません。それでも、日常の不安は消えません。

 

「税金関係も、医療費の領収書も、全部妻の机にまとまっていた。でも、どう仕分けすればいいかもわからない。郵便物の名前すら“これ重要?”って娘に聞く始末で…」

 

特に団塊の世代以上では、外で働く夫と、家庭を切り盛りする妻という役割分担が根強く、夫が一人になることで生活全般に支障が出るケースも多く見られます。

 

内閣府『高齢社会白書』(令和7年版)によると、65歳以上の男性のうち15.0%が単身で暮らしているとされています。結婚歴の有無を問わず、高齢期に身近な人の不在と向き合う男性は年々増えており、家事や手続きに不慣れなまま独居に至るケースも少なくありません。

 

加えて、政府の男女共同参画会議でも、「高齢期においては、女性が家事・日常生活を担ってきた分、男性が一人になると支援が必要な状態になりやすい」と明記されています。

 

「僕は会社員として40年働いてきた。でも、家のことは全部妻。 “生活は収入だけで成り立つものではない”と痛感しています」

 

買い物の仕方、通帳の見方、ゴミの分別方法まで、すべて“わからない”という状態に直面し、真理さんに「こんなはずじゃなかった」と漏らしたこともあるそうです。

 

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